(○○斎場の通夜の席。中央には姑の遺影)
妻 ああ…お義母さん。まさかこがん急に
亡くなんなるて…思いもせんやった(泣く)
夫 本当ばい…まさか、初孫の顔も見んで…
妻 こげんあっとなら、もっと仲良うしとけばよかった…
おくんちば見に行くとも、卓袱料理も、ハワイも
…ハ○ステ○○スのカウントダウンショーも
お義母さんば、いっちょんかっちぇんで…
うわあああん…お義母さん、許してください〜(泣く)
夫 大丈夫て。母ちゃんもそんげん気にしとらんて。
《訳》
妻 ああ…お義母さん。まさかこんなに急に
亡くなるなんて…思いもしなかった(泣く)
夫 本当だよ…まさか、初孫の顔も見ずに…
妻 こんなになるんなら、もっと仲良くしとけばよかった…
おくんちを見に行くのも、卓袱料理も、ハワイも
…ハ○ステ○○スのカウントダウンショーも
お義母さんを、全く仲間はずれにして…
うわあああん…お義母さん、許してください〜(泣く)
夫 大丈夫だよ。母さんもそんなに気にしてないよ。
(そこへ、彼らの叔母さんが登場。
何かを探すようにキョロキョロしている)
叔母 変なかねぇ…たしかここらへんで…
夫 叔母さん、どげんしたとですか?
叔母 そいが…お数珠さんの、のうなったとよ。
さっきお坊(ぼん)さんのお経さんば
あげなったときまでは、確かに手に持っとったとに…
夫 あっ、このイスん下に落っちゃけとりますよ。
オイが拾(ひら)いますけん。
叔母 ああよかった。ありがとうね。
《訳》
叔母 変だわねぇ…たしかここらへんで…
夫 叔母さん、どうしたんですか?
叔母 それが…お数珠が無くなったのよ。
さっきお坊さんがお経を
あげられたときは、確かに手に持っていたのに…
夫 あっ、このイスの下に落ちてますよ。
オレが拾いますから。
叔母 ああよかった、ありがとうね。
(叔母さんが去ると、次は伯父さんが登場。
やはり何かを探すようにキョロキョロしている)
夫 伯父さんは、なんば探しよっとですか?
伯父 オイのメガネば見らんやったね。
さっき涙ば拭いたときは、確かに持っとったとばってん
そんあと、うしのうてしもうたと。
夫 メガネは伯父さんの頭ん上に、乗っかっとりますよ。
伯父 あっ、本当ばい!
妻 ぷーーっ!
《訳》
夫 伯父さんは、なにを探しているんですか?
伯父 オレのメガネを見なかったかい。
さっき涙を拭いたときは、確かに持っていたんだが
そのあと、無くしてしまったんだ。
夫 メガネは伯父さんの頭の上に、乗っかっていますよ。
伯父 あっ、本当だ!
妻 ぷーーっ!
<ワンポイント>
【亡くなんなる】
「お亡くなりになる」の意味。
「取っとっと」に代表される、音のくり返しタイプ方言のひとつ。
例/「あの方このあいだ亡くなんなったと。100歳やったとげな」
(「あの方このあいだお亡くなりになったの。100歳だったそうよ」)
【のうなる】
「無くなる」の意味。「のうならかす」というと「無くす」に近くなる。
例/「小遣いはのうならんごと、ちゃんとポケットになおさんへ」
(「小遣いは無くならないように、ちゃんとポケットにしまいなさい」)
【うしなう】
「無くす」の意味。
標準語の「失う」よりも気軽な、日常的な使いかたをするのが特徴。
例/「小遣いはうしなわんごと、ちゃんとポケットになおさんへ」
(「小遣いは無くさないように、ちゃんとポケットにしまいなさい」)
【お数珠さん・お坊(ぼん)さん・お経さん】
筆者のまわりでは、特に年配者なのだが、このように
お寺関係のものには「お」と「さん」をつけて呼んでいた。
(ひょっとすると長崎独特の風習ではないのかもしれないが)
筆者にとってこれは、なんともいとおしく失ってほしくない
次世代に伝えたい言葉の習慣なのである。
次回へつづく… |