(産院。どうやら夫が仕事先から慌てて駆けつけたところ)
夫 母ちゃん、もうすぐ生まれるっごたってホントや!
姑 あーもうびっくいしてさ、目んまうごたったばい。
「産婆さんば呼ばんばー」て、あわてて家ば出たと。
いま分娩室ばってん、もういっときかかるごたって。
夫 そうや。(ひといきついて)あーも、きゃあまぐれたばい。
《訳》
夫 母さん、もうすぐ生まれるみたいだってホントか!
姑 あーもうびっくりして、目がまわるようだったよ。
「産婆さんを呼ばなくっちゃー」って、あわてて家を出たの。
いま分娩室なんだけど、もうしばらくかかるみたいですって。
夫 そうか。(ひといきついて)ああもう、ものすごく慌てたよ。
(しばらくして、分娩室から赤ん坊の声が聞こえる。
やがて、看護師さんが分娩室から出てくる)
看護師 お父さん、おばあちゃん、たった今ぶじ生まれたですよ。
ふっとか玉んごた男ん子ですよ〜。
夫 よかったー、ああ、よかったー。よかったな母ちゃん。
ああ、おい、ぼっくいうれしか。ほんなこつうれしか。
もう涙んずっごた。
姑 よかったーほんとによかったー。
ああ、よかっ…あれ、なんか目んまう…(ガクッ)
夫 か…母ちゃん!? どげんしたとや! 母ちゃん…!
《訳》
看護師 お父さん、おばあちゃん、たった今ぶじ生まれましたよ。
大きな玉のような男の子ですよ〜。
夫 よかったー、ああ、よかったー。よかったな母さん。
ああ、おれ、ものすごくうれしい。本当にうれしい。
もう涙が出るみたいだ。
姑 よかったーほんとによかったー。
ああ、よかっ…あれ、なんだか目がまわる…(ガクッ)
夫 か…母さん!? どうしたんだ! 母さん…!
(ナレーション)
初孫誕生の喜びもつかのま、突然うったおれた姑。
さて、こんあと姑に、いったいどがん運命の
待ちうけとっとでしょうか!?
《訳》
初孫誕生の喜びもつかのま、突然倒れた姑。
さて、このあと姑に、いったいいかなる運命が
待ちうけているのでしょうか!?
<ワンポイント>
【目んまう】
目がまわる。
例/「目んまうごて忙しか」(「目がまわるように忙しい」)
【いっとき】
「しばらく」という意味で、古い標準語でも使われているが
長崎ではもっと日常的に使用されることが多い。
例/「やかましか! いっときおとなしゅうしときなさい!」
(「うるさい! しばらくおとなしくしていなさい!」)
【きゃあ】
「ものすごく」の意味。
例えば「きゃあなえる」は「ものすごく疲れる」である。
【まぐれる】
慌てる、おろおろする、パニックになる、失神する、など
わけがわからない精神状態になること。
またそのほかに「あきれる」という意味もあるらしい。
【ほんなこつ】
本当に。とっても。「ほんなこて」とも言う。
次回へつづく… |