(茶の間に嫁が寝ている。部屋は散らかり惨たんたるありさま)
姑 こないだあんがん言うたとに、いっちょん聞いとらんとね〜。
(片付けながら)…食べたら食べっぱなし、飲んだら飲みっぱなし
脱いだら脱ぎっぱなし、置いたら置きっぱなし…
嫁 だって、お腹の重うして、きつうして。
姑 そいけんておうち、そがんゴロゴロしてばっかいで
元気な赤ちゃんの生まるって思うとへ!
ほらほら、赤ちゃんのためにトイレぐらい掃除して来(こ)んへ!
嫁 わかりました、わかりました。
(おっくうそうに立ち上がる)…あーいたこらきっつぁ!
《訳》
姑 こないだあんなに言ったのに、ぜんぜん聞いてないのね〜。
(片付けながら)…食べたら食べっぱなし、飲んだら飲みっぱなし
脱いだら脱ぎっぱなし、置いたら置きっぱなし…
嫁 だって、お腹が重くって、きつくって。
姑 だからってあなた、そんなにゴロゴロしてばっかりで
元気な赤ちゃんが生まれるって思うの!
ほらほら、赤ちゃんのためにトイレぐらい掃除して来なさい!
嫁 わかりました、わかりました。
(おっくうそうに立ち上がる)…あどっこいしょっと!
(茶の間を片付けながら)
姑 あ〜あ、あん子ば育てよっ時は
あがん嫁さんばもらうことになるては、思いもせんやったとに。
幼稚園の時にあん子は、ちんじゅうっちゅうて、からかわれて
わたしが、いじめっ子ば怒ってさらいた事もあった。
気の弱あしてやさしか子やっけん、だまされたっさ、あん嫁に…。
(トイレから嫁の悲鳴)
嫁 あ、いたたたたた…。
姑 どど…どげんしたと!?
嫁 う…生まるっ、生まるーっ!
《訳》
姑 あ〜あ、あの子を育てている時は
あんな嫁さんをもらうことになるとは、思いもしなかったのに。
幼稚園の時にあの子は、くせっ毛といって、からかわれて
わたしが、いじめっ子を叱ってまわった事もあった。
気が弱くってやさしい子だから、だまされたのよ、あの嫁に…。
(トイレから嫁の悲鳴)
嫁 あ、いたたたたた…。
姑 どど…どうしたの!?
嫁 う…生まれる、生まれるー!
<ワンポイント>
【食べたら食べっぱなし、飲んだら飲みっぱなし
脱いだら脱ぎっぱなし、置いたら置きっぱなし】
方言かどうかはさだかではないのだが、少なくとも県外において
このように言っているところを、筆者は聞いたことがない。
ひとつひとつ片付けながら、あきれたように(散らかした本人に向かって)
責めるように、これ見よがしに言うのがポイント。
【あーいたこらきっつぁ】
立ち上がるときや、そのほか気合を入れる場合において
思わずこの言葉が出たならば、まちがいなくあなたは長崎人
しかも、年寄り。
【ちんじゅう】
天然パーマ。くせっ毛。
次回へつづく… |