(台所)
姑 おうち、なんねこんみそ汁(しゅる)の味は!
さぶなかて、思わんね!?
嫁 そうですかぁ? うちはそげん思わんですけど…
ばってん、お義母さんが思いなっとやったら
ちょっと濃ゆくしましょかね。(ドボドボとみそを入れる)
姑 ああぁあ、そんげんみそば入れたら、からかて〜…
もうよかけん、おうちはあっちに行っとかんへ!
《訳》
姑 あなた、なんなのこのみそ汁の味は!
もの足りないと、思わないの!?
嫁 そうですかぁ? わたしはそうは思わないですけど…
だけど、お義母さんが思われるんだったら
ちょっと濃くしましょうかね。(ドボドボとみそを入れる)
姑 ああぁあ、そんなにみそを入れたら、しょっぱいって〜…
もういいから、あなたはあっちに行ってなさい!
(嫁が居間に移動したあと)
姑 ああもう、なんでうちん嫁は
こがん料理の、下手かとやろうか…。
うちが死んだら息子は、あん嫁の、あんひどか料理ば食べて
暮らさんばいかんとやろうか…。
《訳》
姑 ああもう、なんでうちの嫁は
こんなに料理が、下手なのかしら…。
わたしが死んだら息子は、あの嫁の、あのひどい料理を食べて
暮らさなくてはならないのかしら…。
(嫁、ミカンを手に台所に戻ってくる)
嫁 お義母さん、ミカンのぼっくい美味しかですねぇ〜、パクパク。
姑 あらまぁそいは、お隣から貰う(もろう)たはよかばってん
ぼっくい酸っぽうして、食べられんやったミカンばい。
嫁 そうですか〜?
ばってん、いっちょん酸っぽうなかですよ、パクパク。
姑 あらそう? パク…。うへぇっ酸っぱか〜!ペッペッ!
嫁 え〜、酸っぽうなかですよ、パクパクパク。
姑 はっ…、こ…こいは、もしかしておうち、妊…?
《訳》
嫁 お義母さん、ミカンがとても美味しいですねぇ〜、パクパク。
姑 あらまぁそれは、お隣から貰ったはいいけど
とても酸っぱくて、食べられなかったミカンよ。
嫁 そうですか〜?
でも、ぜんぜん酸っぱくないですよ、パクパク。
姑 あらそう? パク…。うへぇっ酸っぱい〜!ペッペッ!
嫁 え〜、酸っぱくないですよ、パクパクパク。
姑 はっ…、こ…これは、もしかしてあなた、妊…?
<ワンポイント>
【さぶなか】
味がもの足りない、の意味。しかし、現在は使う人も少なくなったようす。
【濃ゆい、濃ゆか】
濃い、をこう表現する。「味が濃い」は「味ん濃ゆか」。
濃口醤油は「こゆくちしょうゆ」という。
【からか】
「からい」の使い方には、2とおりある。
ひとつは香辛料の「からい」で、これは標準的な使い方と一緒だが
もうひとつは「しょっぱい」という意味で使う。
次回へつづく…
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