いつの時代も
嫁と姑の闘いは大変です。
これも祭りだと思えば楽しいのでしょうけども…。


(茶の間)

夫 ただいま〜。…なんね、母ちゃん、なんばはぶてとっとね。

姑 …おうちたちばっかい、しゃじきでくんちば見てから。
  テレビ中継にまっぽし映っとったばい。あ〜あ、良かばっかいたい!

夫 (あっ!しもうた!内緒にしとったとに)そんげん言うたっちゃ
  県外の取引先ば接待すっとやっけん、親までつれて行かれんやろが。

姑 奥さんは連れて行くとね。

夫 向こうも奥さん同伴やったと。しょんなかたい。
  そんがんぶすくれんと。ほら、お土産ばい、梅が枝餅。

嫁 あ、うちがお茶ば入れますよ。きびしょはどこですか?

姑 きびしょん場所も知らんで、よー嫁て顔のでくっばいね!

《訳》
夫 ただいま〜。…なに、母さん、なにを不機嫌にしてるの。

姑 …あんたたちばっかり、桟敷席でくんちを見てたじゃない。
  テレビ中継に真正面で映っていたわよ。あ〜あ、良いわねえ!

夫 (あっ!しまった!内緒にしていたのに)そう言われても
  県外の取引先を接待するのに、親までつれて行けないだろう。

姑 奥さんは連れて行くのね。

夫 向こうも奥さん同伴だったんだ。しょうがないだろう。
  そんなにふくれっ面しないで。ほら、お土産だよ、梅が枝餅。

嫁 あ、わたしがお茶を入れますよ。急須はどこですか?

姑 急須の場所も知らないで、よく嫁って顔ができるわね!


(台所)

嫁 あがん、にくてばっかいされて、うちはもう我慢でけん…。

夫 そがん言わんちゃ、もちっと我慢してくれろ…。

《訳》
嫁 あんな、意地悪ばかりされて、わたしもう我慢できない…。

夫 そんなに言わないで、もう少し我慢してくれ…。


(再び茶の間)

姑 (甘かもんば食べたけん機嫌ばなおしとらす)
  ほれ、梅が枝餅、おうちたちも食べんね。

嫁 あ、うちはよかです、夜からまた卓袱(しっぽく)ば
  食べに行かんばけん。今あんまり食べたら入らん…

夫 (小声で)あー…そいば今言うたら…

姑 んまぁ!しっぽくげな〜〜!?

《訳》
姑 (甘いものを食べたので機嫌をなおしている)
  ほら、梅が枝餅、あなたたちも食べなさい。

嫁 あ、わたしはいいです、夜からまた卓袱(しっぽく)を
  食べに行かなくちゃならないので。今あんまり食べたら入らない…

夫 (小声で)あー…それを今言ったら…

姑 んまぁ!しっぽくですって〜〜!?


<ワンポイント>

【くんち】
長崎くんち。10月7、8、9日の3日間行なわれる、長崎諏訪神社の秋の大祭である。
「踊り町」と呼ばれる町が、さまざまな奉納踊りを神さまに披露したのち
「庭先回り」といって、街じゅうをねり歩く。

【良かばっかいたい】
良いことばかりですね。喜んだり羨望したりというより
ねたみを多く含むニュアンスで、憎々しげに言うのがポイント。
例/「ゆうべの合コンではあんただけもてて、良かばっかいたい」

【しゃじき】
正格には「桟敷」なのだが、このようにナマって発音されることが多い。
※長崎の人間は「さしすせそ」が「しゃししゅしぇしょ」とナマるのである。
とくに、年配になるにしたがい、その傾向が強い。
例/「しぇんしぇい(先生)」「しぇんばでけん(しなくちゃいけない)」

【きびしょ】
急須のこと。

【にくて】
憎々しいことを他人にする。意地悪する。

【卓袱(しっぽく)料理】
中国風の円卓を囲んでいただく、長崎の代表的な高級料理。
和洋中華が入り混じった豪華なものである。
「おひれをどうぞ」の言葉で、お吸物から先に箸をつけるのがならわし。


次回へつづく…

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