去年の夏のことです。
おいは、数人の友人と、つんのうで
近くの海水浴場に、キャンプばしに出かけたとです。
《訳》
去年の夏のことです。
僕は、数人の友人と、連れ立って
近くの海水浴場に、キャンプをしに出かけたんです。
夜になってテントで、怖か話ば、しよりました。
話の盛りあがりよったとき、友人のH君が
「なんか、テントの外でへんなか音のする」と、言いだしました。
おいどんは、ひえかぶりました。
外に出てまわりば見回しましたが、なんもありません。
H君は、おいどんの仲間では、ひえじごで有名かったとです。
「気のせいやろう」ということになって、そん日はもうぬっことにしました。
《訳》
夜になってテントで、怖い話を、していました。
話が盛りあがってきたとき、友人のH君が
「なにか、テントの外でおかしな音がする」と、言いだしました。
僕たちは、ぞっとしました。
外に出てまわりを見回しましたが、なにもありません。
H君は、僕たちの仲間では、臆病なことで有名だったのです。
「気のせいだろう」ということになって、その日はもう寝ることにしました。
翌朝、おいどんは飛びこむとによかていう、岩場に行きました。
H君も、ゆうべとはうってかわって、楽しかごたっ顔ばしとります。
つぎつぎ友人らが飛びこみ、彼の番になりました。
おいは、飛びこむ彼のすがたば、カメラにおさめました。
そしてH君は、海からニ度と上がってこんやったとです…。
《訳》
翌朝、僕たちは、飛びこむのに格好という、岩場に行きました。
H君も、ゆうべとはうってかわって、楽しそうな顔をしています。
つぎつぎ友人らが飛びこみ、彼の番になりました。
僕は、飛びこむ彼のすがたを、カメラにおさめました。
そしてH君は、海からニ度と上がってこなかったのです…。
…H君の葬式の終わって、キャンプで撮ったフィルムば、現像に出しました。
ばってん翌日、出来上がった中に、あん岩場でのH君の写真のなかとです。
聞いたら写真屋は「あいは見らんほうがよか」て言うとです。
ばってんやっぱし、H君の写っとる最後の写真ですけん
熱心に頼んで、やっと出してもろうたとです。
そしたら、そこに写っとったもんは…。
海に飛びこもうてしよるH君と
そいば引きずりこむごと、海から伸びよる無数の、手。
《訳》
…H君の葬式が終わって、キャンプで撮ったフィルムを、現像に出しました。
しかし翌日、出来上がった中に、あの岩場でのH君の写真がありません。
聞いたら写真屋は「あれは見ないほうがいい」と言うのです。
しかしやっぱり、H君の写っている最後の写真なのですから
熱心に頼んで、やっと出してもらったんです。
そしたら、そこに写っていたものは…。
海に飛びこもうとしているH君と
それを引きずりこむように、海から伸びている無数の、手。
<ワンポイント>
【つんのうで】
連れ立って。いっしょに。
例/「つんのうでトイレに行こうで」(「いっしょにトイレに行こうよ」)
【ひえかぶる】
驚いたり、あせったり、ぞっとしたり、怖がったりと
いわゆる冷や汗をかくような状態になること。
【ひえじご】
臆病者。「じご(じごんす)」には「肛門」の意味がある。
つまり、お尻の穴が冷えている者、ということであろうか。
次回へつづく…
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