雨。そして石だたみ。
長崎の夜はむらさき色に
男と女の心もよう…。


ママ  ああ、雨のこがん降いよったら
    お客さんも、よう来んばいねぇ…。

(カランカラン、とドアの開く音のして)

ママ  いらっしゃいませぇ。

客G   あー、ぼっくい濡れてしもうた。タオルば貸してくれんね、ママ。

ママ  あらぁ、Gさんいらっしゃい。あらまあじゅっくし濡れとらすたい。
    はい、タオル。風邪ばひかんごと、よう拭きなって。
    お酒はキープんとでよかね。

《訳》
ママ  ああ、雨がこんなに降っていたら
    お客さんも、あまり来ないわよねぇ…。

(カランカラン、とドアの開く音がして)

ママ  いらっしゃいませぇ。

客G   あー、ものすごく濡れてしまった。タオルを貸してくれよ、ママ。

ママ  あらぁ、Gさんいらっしゃい。あらまあびっしょり濡れてるじゃないの。
    はい、タオル。風邪をひかないように、よく拭いてらして。
    お酒はキープのやつでいいわね。


ママ  …なかなか、お店に来ならんけん
    Gさんの好いとる肉じゃがも、ねまってしまうとこでしたばい。
    ハイ、どうぞ。

客G   うれしかー。こん肉じゃがば食べたかったっさ。(パチン、と割り箸ば割る)
    ママの手づくりの肉じゃがは、味のようしょんどって、おいしかもんね。

《訳》
ママ  …なかなか、お店にいらっしゃらないから
    Gさんが好きな肉じゃがも、くさってしまうとこでしたわ。
    ハイ、どうぞ。

客G   うれしいなー。この肉じゃがを食べたかったんだ。(パチン、と割り箸を割る)
    ママの手づくりの肉じゃがは、味がよくしみこんでいて、おいしいもんね。


ママ  …こがんひどか雨の中、お店に来てくれらして
    そげん嬉しかことば、言(ゆ)うてくれらすとやもん
    きっと、たまったツケも、払(はろ)うてくれなっとやろうねぇ…。
    …いや、今んとはうちのひとりごとやっけん、気にせんでよかよ。

客G   う…ゴホゴホッ。

《訳》
ママ  …こんなひどい雨の中、お店に来てくださって
    そんな嬉しいことを、言ってくださるんだもの
    きっと、たまったツケも、払ってくださるのよねぇ…。
    …いや、今のはわたしのひとりごとだから、気にしないでいいのよ。

客G   う…ゴホゴホッ。


<ワンポイント>

【じゅっくし】
びっしょりと濡れているさま。「じゅっくい」ともいう。
例/「遅れるて思って走ってきたけん、汗じゅっくいになったばい」
 (「遅れると思って走ってきたから、汗びっしょりになったよ」)

【〜んと】
〜のもの。
例/「こん落し物は誰(だい)んと?」「あっそい、おいんと!」
 (「この落し物は誰のもの?」「あっそれ、俺のもの!」)

【浜ん町】
正しくは「浜町(はまのまち)」。長崎の中心街として古くからにぎわってきた。
メインストリートの浜市アーケードは、今年(2002)100歳になるらしい。

【ねまる】
くさる。
例/「いまの世の中はねまっとるばい」(「いまの世の中はくさっているぜ」)

【気のどっか】
標準語の「気の毒」は、「かわいそう」「申しわけない」という意味あいだが
長崎では「申しわけない」というニュアンスで、ひんぱんに使われている。
例/「あいやー、こんげんお土産ばもろうて、きのどっかです」


次回へつづく…

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