春は花見の季節です。
和やかに穏やかに花を愛でるためには
場所取りが、何よりも大切なんですね…


青年 よか花見びよりばい。
   こんふっとか桜ん木んにきがちょうどよか。ここにせんば。

《訳》
青年 いい花見びよりだな。
   この大きな桜の木のあたりがちょうどいいな。ここにしよう。


(洗面所の方から登場する中年男性)

中年 あっ、わいこすかぞ!
   その場所はおいが、早うから取っとっとぞ。
   そこに、新聞紙ば敷いとったやろうが。

青年 ああ、あいは敷いとったとですか。
   よそわしかけん、てっきりゴミて思うて
   ももぐらかして捨ててしもうたです。

中年 なんてや〜、若(わっ)かくせ、おーちゃっかぞ!
   あっ…よう見たら、わいは近ごろ進出してきた
   ベンチャー企業「●●カンパニー」んもんやっか。

青年 そげん言いよるとは、老舗の「■■商店」の…

《訳》
中年 あっ、お前ずるいぞ!
   その場所は俺が、早くから取っているんだぞ。
   そこに、新聞紙を敷いていただろうが。

青年 ああ、あれは敷いていたんですか。
   きたないから、てっきりゴミと思って
   くしゃくしゃにして捨ててしまいました。

中年 なんだと〜、若いくせ、生意気だぞ!
   あっ…よく見たら、お前は近ごろ進出してきた
   ベンチャー企業「●●カンパニー」のやつじゃないか。

青年 そう言っているのは、老舗の「■■商店」の…


中年 うぬぬ〜、ここで会うたが百年目。
   こん桜ん木んにきは、わいどんだけには絶対渡さんばい。
   うちは先祖代々、こん桜んにきで花見ばしよったと。

青年 そいは、おったちが言うセリフたい!
   老舗やっけんて、いつもいばっとらすばってん
   そげん時代はもう、とうに終わっとっと。
   こん花見ん場所は、おったちがもらうばい!

《訳》
中年 うぬぬ〜、ここで会ったが百年目。
   この桜の木のあたりは、お前らだけには絶対渡さないぞ。
   うちは先祖代々、この桜のあたりで花見をしていたんだ。

青年 それは、俺たちが言うセリフだ!
   老舗だからといって、いつもいばっているが
   そういう時代はもう、とうに終わってるんだ。
   この花見の場所は、俺たちがもらうぜ!


(ナレーション)

どちらが花見の場所を、わがんとにするか
たがいの自負と矜持をかけ、男たちの壮絶なたたかいの火蓋は
まさにいま、切らるっごとしとっとであった。

《訳》
どちらが花見の場所を、自分のものにするか
たがいの自負と矜持をかけ、男たちの壮絶なたたかいの火蓋は
まさにいま、切られようとしているのであった。


<ワンポイント>

【取っとっと】
場所や物などを確保している、という意味である。
語尾を上げれば「取っているの?」という、疑問形にも変化する。
例/「ここ取っとっと?」「うん取っとっと!」
 (「ここは取っているの?」「うん取っているよ!」)

【こすか】
ずるいの意味。ずるいことをする、という場合は「こすばる」。
例/「こすばらんで、ちゃんと列の後に並んでください」

【よそわしか】
きたないの意味である。
例/「うわーウンコば踏んだ」「よっそわーし!」

【ももぐらかす】
くしゃくしゃにする。服などを脱ぎっぱなしにしていた場合
親から「あーもーこがんとこにももぐらかして!」と叱咤される。

【おーちゃっか】
横着な、生意気な。以前紹介した「おーどか」と似ているが
相手に面とむかって言うような場合には、この「おーちゃっか」を使用。


次回へつづく…

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