遠距離恋愛中のカップル。
クリスマスを前に駅の広場はロマンチックムード
それなのに、ふたりは…?


E美 …ねえF介くん、うちが博多に行っとるあいだ
   浮気んごたっとせんて、約束してくるっ?

F介 あたりまえやっか。おいが好いとっとはE美だけたい。

《訳》
E美 …ねえF介くん、わたしが博多に行ってるあいだ
   浮気なんかしないって、約束してくれる?

F介 あたりまえじゃないか。僕が好きなのはE美だけだよ。




E美 ホントやろうね。そしたら
   同僚からお茶ば誘われても、断らんばばい。
   街で、きれか女の人のおっても
   見向きもしたらいかんばい。

F介 あ〜も〜、しっちゃぐらしかなぁ、わいは!

E美 なんねその云いかたは。
   うちが不安で、胸のぴっしゃげるごたっとに
   おうちはいっちょんわかってくれんたい。

《訳》
E美 ホントでしょうね。それなら
   同僚からお茶に誘われても、断ってよ。
   街で、きれいな女の人がいても
   見向きもしちゃいけないわよ。

F介 ああもう、うっとおしいなぁ、お前は!

E美 なによその云いかたは。
   わたしが不安で、胸が押しつぶされそうなのに
   あなたは全然わかってくれないじゃない。




E美 「クリスマスばふたりいっしょに過ごそうで」
   ていうて、こん前約束したやかね。
   そいとに仕事の入ったて云うてひどか。

F介 そがん云うたっちゃ、仕事がケーキ屋やもん
   しょんなかろうが。

E美 もうよか!
   おうちんごたっと、いっちょん好かん!

《訳》
E美 「クリスマスをふたりいっしょに過ごそうよ」
   といって、この前約束したじゃない。
   それなのに仕事のが入ったなんてひどい。

F介 そんなに云われても、仕事がケーキ屋なんだから
   しょうがないじゃないか。

E美 もういい!
   あなたみたいな人、大嫌い!




(ナレーション)
そして博多行きの「特急かもめ」にとび乗るE美。
うっちょかれて、かもめ広場に立ちすくむF介。
果たして、ふたりの運命やいかに…。

《訳》
そして博多行きの「特急かもめ」にとび乗るE美。
とり残されて、かもめ広場に立ちすくむF介。
果たして、ふたりの運命やいかに…。



<ワンポイント>

【しっちゃぐらしか】
「面倒くさい・うっとうしい」の意味を持つことばは
「せからしか」「やぐらしか」などがあるが
「しっちゃぐらしか」という表現は、その最上級で使用される。

【ぴっしゃげる】
余談だが、筆者の学生時代に
「ぴっしゃげ」というニックネームの男性教諭がいた。
その名のしめすとおり、ひじょうに小柄な先生だった。

【いっちょん好かん】
このセリフをマトモに浴びたら
長崎の人間は、立ち直れなくなること請け合いである。

【かもめ広場】
長崎駅の改札前にある広場。
よく駅を「玄関口」と表現することがあるが
ならば広場は「三和土」であろう。
いつも、たくさんの人でにぎわっている。



次回「ロマンスは終着駅で(後編)」へつづく…
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