とある運動部に所属する高校生男子。
恋文をたずさえ、女子マネジャーに
今日こそ告白するぞと、意気込んでいる


(C夫のひとり言)
今日こそおいの想いば、D子さんに伝えんば

《訳》
C夫 今日こそ僕の想いを、D子さんに伝えなくては。



(恋文の内容)
D子さん、いきなりこげんして手紙ば出すとば
お許しください。
おいはずっとD子さんのことば、好いとりました。

《訳》
D子さん、いきなりこうして手紙を出すのを
お許しください。
僕はずっとD子さんのことを、好きでした。



あいは高総体まえの、早朝練習のときです。
D子さんは「みんなよかしこ食べんね」て云うて
おにぎりとみそしゅるば
山んごと、作ってきてくれましたね。
あんときおいは、ぼっくいうれしゅうして
えろうよけしこ食べてしもうたとです。
おかげで、そん日の朝の授業は眠とうして
先生に、がられたとばってん
そいでもおいは幸せでした。

《訳》
あれは高総体まえの、早朝練習のときです。
D子さんは「みんな好きなだけ食べてね」と云って
おにぎりとみそ汁を
山のように、作ってきてくれましたね。
あのとき僕は、とってもうれしくて
えらくたくさん食べてしまったんです。
おかげで、その日の朝の授業は眠たくて
先生に、怒られたんですけど
それでも僕は幸せでした。



そいから、練習試合のときに
皿うどんば、山んごと持ってきてくれましたね。
あんときもおいは、ぼっくいうれしゅうして
腹んはちきるんごと、食べてしもうたとです。
おかげで、腹んせいて腹んせいて
試合にも、負けてしもうたとばってん
D子さんはそん時「がっぱいせんと」て云うて
なぐさめてくれましたね。
おいは、ぼっくい幸せでした。

《訳》
それから、練習試合のときに
皿うどんを、山のように持ってきてくれましたね。
あのときも僕は、とってもうれしくて
お腹がはちきれるように、食べてしまったんです。
おかげで、お腹が痛くて痛くて
試合にも、負けてしまったんですけど
D子さんはその時「がっかりしないの」と云って
なぐさめてくれましたね。
僕は、とても幸せでした。



D子さん、おいとつきおうてくれんですか。

《訳》
D子さん、僕とつきあってくれませんか。



(D子さんのひとり言)
C夫くん…気持ちはありがたかばってん
おうち、食べ物のことしか書いとらんばい…。
そいに…あん料理、ぜんぶお母さんが作ったとさ…。

《訳》
C夫くん…気持ちはありがたいけど
あなた、食べ物のことしか書いてないわ…。
それに…あの料理、ぜんぶお母さんが作ったんだ…。


<ワンポイント>
【〜しこ】
「〜だけ」など量をあらわすことば。注・よかしこ=「好きなだけ」よけしこ=「た
くさん」。

【しゅる】
長崎の人間は「汁」をこう発音することが多々ある。鼻汁は「はなじゅる」。

【皿うどん】
実際には、皿うどんを試合などで食べたりはしないが、親せきなど大勢の人間が集
まったときなどには、必ず食す習慣がある。パリパリした細めん、チャンポンめんを
使った太めんの2種類。

【腹んせく】
お腹が痛いという意味である。急く(せく)ということばは、ふつう「あせる」「せ
きたてる」を表すが、お腹が痛くてちょっとユルメかなという時には、確かにあせっ
たり、せきたてられる気持ちになる。


次回へつづく…
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