西道仙の足跡を辿る旅
書が刻まれた碑に、詩に、
道仙の生きざまを見る
その7.長崎歴史学会の草創者および漢学者にまつわるエピソード
西道仙は号を琴石(きんせき)といい、能筆家でもあった。書や襖絵はもちろん、自ら名付けた橋名ほか多くの石碑にその書を残し、今も私たちはそれを目にすることができる。号の「賜琴石斎(しきんせきさい)」は、澤宣嘉卿から褒賞として賜わった巨石「琴石」に由来するもので、道仙は折々で、「琴石」「琴石西道仙」「琴石道仙」「賜琴石斎西道仙」を使い分けている。もっとも晩年は、揮毫(きごう)や金石文の依頼の多さに閉口し、訪問者の面会を断る際は、大声で「留守だといいなさい」といい、対応する家族を困らせたのだとか。
そして、道仙は西郷隆盛辞世の詩「城山」の作者としても知られる。
「城山」
孤軍奮鬪破圍還
一百里程堅壘間
吾劍已摧吾馬斃
秋風埋骨故��山
孤立無援の我が軍は奮闘し包囲を突破し故郷に帰ってきた。
思えばあちこちの堅固な砦をくぐり抜け、その間百里の行程であった。
我が剣はすでにくだけ折れ、我が馬も倒れた。
今は秋風吹く故郷の山に骨を埋めるとしよう。
城山は鹿児島の城山のことで、明治10年(1877)、西南の役での西郷隆盛自刃の地。西郷隆盛の心の内を思い、道仙はこの詩を「長崎自由新聞」紙上に掲載した。
長崎の町のあちらこちらには、道仙の書を刻んだ石碑が数多く点在している。西道仙の足跡として訪ね歩いてみてはどうだろうか。
お立ち寄りスポット1
【琴石】
鳴滝の官有地跡に残る琴の形をした奇石。道仙は持ち出すことはできず「山にあってこそ琴石の価値があるんです」といい、その得意の詩を詠んだ。
琴石先生琴亦奇
此音聴者果為誰
〈琴石先生の琴また奇なり
此の音聴く者は果して誰と為すか〉
この琴石の傍らには、交流のあった晧台寺27代住持 名僧 金峰玉仙が撰文を書き記した「琴石西先生記念碑」が建つ(鳴滝高校(元長崎県立女子短期大学跡)の裏山に現存)。
お立ち寄りスポット2
【眼鏡橋】
親柱に刻まれた橋名。古川町側は「眼鏡橋」と漢字で、栄町側は「めがね橋」とある。いずれも能筆家でもあった道仙の筆といわれているもの。命名から今年で130年。この長い歳月を「眼鏡橋」として歩んできたと思えば、何だか感慨深い。昭和35年(1960)国の重要文化財に指定。
お立ち寄りスポット3
【シーボルト宅跡】
鳴滝塾跡の敷地内に建てられた「シーボルト先生之宅址」の記念碑は、明治30年に建立。塾舎の礎石を集め建てられたこの碑の撰文を道仙が書いている。
建物が解体された後此処は荒れ果て、建物の基礎が僅かにあって
古井戸は干上がり雑木が鬱蒼と繁っていた……
大正11年(1922)国の史跡に指定。
お立ち寄りスポット4
【迎陽亭跡】
料亭の入口の門柱に使用されているのは唐船の繋留石柱、いわゆる“ともづな石”。ここに「唐船維纜石(とうせんいらんせき)」、そして珍しく「西道仙書」と書いてある。元料亭迎陽亭は、時の関白一条忠良が命名し、文人墨客が訪れた長崎屈指の料亭だった。大正元年(1912)3月9日、道仙の盛大な喜寿の祝宴もここで催された。
※2010.8月 ナガジン!特集「歴史を語る碑のある風景」参照
お立ち寄りスポット5
【祝捷山運動公園】
上小島の高台、古くは長崎氏と深堀氏の合戦の場であったことから、現在でも「合戦場(かっせんば)」と呼ばれる場所がある。江戸時代は大砲小銃の試射や狼煙の実験を長崎奉行が見聞する場所だった。その後、道仙の親戚関係にあった東浜町の呉服商「田中屋」の田中直三郎が、日露戦争勝利を記念して公園整備。明治38年(1905)、道仙が「祝捷山(しゅくしょうざん)」と命名し、大岩にその名を刻んだ。(田上2丁目 田上病院裏地)
その他、郷土史誌の刊行や、散逸していく長崎の古文書の収集保存し、市民の閲覧する近代図書館の先駆けである長崎文庫(現長崎県立図書館の源流)を創立するなど、数えきれないほどの功績を残した西道仙。迎陽亭で喜寿の祝いを行なった翌年の大正2年(1913)7月10日、78歳でこの世を去った。
新聞各紙では、西道仙の偉業を讃える記事が大々的に掲載され、「長崎日日新聞」では追って追悼の連載記事、「長崎新聞」では、追加で葬儀日程を掲載するなどしてその追悼の意を表明した。
墓は寺町大音寺後山。墓碑には「賜琴石斎西道仙墓」と深く刻まれている。
最後に--。
壮年期の道仙は古墳旧跡を訪ね歩くことを楽しんでいたという。今、町中を見渡しても、その時代道仙が関わった人、モノ、町の痕跡が残り、それが観光都市長崎の基盤となっていることに気づかされる。2年後の平成25年(2013)は西道仙没後100周年の年。今一度、道仙の功績が脚光を浴びる時である。
参考文献
『西道仙−明治維新後の長崎を駆け抜けた快男子−』長島俊一著
『長崎石物語』布袋厚著
〈3/3頁〉
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