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令和5年度第1回 長崎原爆資料館運営審議会小委員会

更新日:2024年4月12日 ページID:041947

長崎市の附属機関(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部 平和推進課

会議名

令和5年度第1回 長崎原爆資料館運営協議会小委員会

日時

令和5年7月27日(木曜日) 15時30分~

場所

長崎原爆資料館2階 会議室

議題

1 協議事項
(1)核兵器をめぐる国際情勢に関する展示
(2)被爆医療や放射線等に関する展示

審議結果

事務局から進行説明
(各部門を専門とする担当委員より議題に関する必要な視点等について説明、その後事務局より展示の現況について説明した後、意見交換を行う。)

1協議事項
(1)核兵器をめぐる国際情勢に関する展示

〈担当委員より説明〉

【委員】
現在は「第3の核の時代」といえます。現在の展示の中身は一直線、フラットな印象があり、より国際政治の背景が分かるようなものにすべきと思います。特に核兵器をめぐる国際情勢について、立体的にダイナミックに展示し、それによってなぜ核軍縮が進まないのかということを来館者に考えさせるものにした方が良いです。今のままでは、展示が事実関係の列挙に留まっていて、なぜ核軍縮が進まないのかを理解できないまま退館してしまいます。
国際政治の背景をしっかり押さえるべきではないかと思います。
例えば国際政治の大きな流れとして次の3つに分けられます。「第1の核の時代」(1940年~1990年)として、全面核戦争の危機があった時代。次に「第2の核の時代」(1990年~2014年)として、旧ソ連が崩壊し核廃棄物や核兵器そのものの流出、核テロリスト、地域への核拡散があった時代。そして現在が「第3の核の時代」(2014年~現在)クリミア併合を発端とした、既存の国際秩序を変更しようとする動きや、武力侵攻に核の影をちらつかせている動きがある時代、とされています。
国際政治の現状は、先端技術が発達し、核兵器ではない戦略兵器も台頭し、核の抑止が破綻するリスクが非常に高まり、脆弱な時代になっています。核の役割も時期によって変化し、第2の時期は抑止力があったものの役割は低減し、第3の現代は役割が拡大し、抑止どころかアグレッシブな使われ方をしています。来館者が立体的に理解し、より深く考え、更に実際どうすればいいのか考えることができる展示にすべきだと思います。
核の問題は単純ではなく、非常に複雑な問題であるということを示したうえで考えさせるような展示、情報の展示と考えさせる展示の両方が必要ではないでしょうか。その方が博物館としての教育効果も得られるものになると思います。


・事務局より展示の現況について説明 

〈協議内容〉

【副会長】
まずは目指す姿・状態について、事務局からも何点か示されましたが、時間の関係で10分程度、1人2、3分程度でご意見をお願いします。 

【委員】
目指す姿というのは、これまで出されてきたものですか。それとも新しいものですか。 

【事務局】
運営審議会でご説明した「基本的な考え方」を元に、事務局の方で考えたものです。 

【委員】
「時代の変化に応じて」とは、正にこの昨今の国際情勢の大きな流れ、単に起きている出来事を示すのではなく、どのようなダイナミクスが起きているかということが分かるように、との趣旨だと思います。 

【委員】
目指す姿について、特に異論はありません。来訪者が核の時代に生きている当事者であると自覚し、どうしたらいいかを帰りながら考えていく展示にしてほしいと思います。以前も来館したことはありますが、前回審議会の後に改めて展示室を案内してもらいました。その際、それぞれのポイントで何を自分が受け止めたか、そこが考える点かなと思っています。
例えば脅し的ではあるけれども、「終末時計」を置くのも問題提起になるのではないでしょうか。 

【委員】
委員発言の、3期に分ける方法は良いと思います。アインシュタインと核を考えるところから始めるなど、若い方たちに訴えるにはサイエンティフィックな背景も必要かと思います。
もう1点、若い方たちが核兵器廃絶を真剣に考えるために、どのような筋道があるのか、例えば長崎高校生平和大使が国連に行ったが、現在の国際情勢の元では実現がなかなか難しい、といったできるだけ身近に感じられるような平和の取り組みと国際機関の具体的な取り組みなど、こうしたら核兵器廃絶に繋がりますよ、と考える機会を与えるため、平和大使や政策提案への道を示して、モチベーションを高めるような活動の展示が少し増えるといいのではないかと思います。

【委員】
話を聞きながら、技術的な問題もあるのかなと感じました。核兵器をめぐる情勢は複雑ですが、入場した方が1つのストーリーを感じられるような展示にするためには相当高度なテクニックを要すると思います。しかし中身に関しては参考になるところが多くありました。
なぜ今が第3の核の時代になっているのか、現代人にとって最も重要な点ですので、ここに重点を置きながら説明すると良いと思います。そのためには過去の出来事も大切です。先日展示を見学したところ、1962年キューバ危機の記述が非常に少なかったように感じました。当時は自分が高校生でしたが、テレビ放映等から今にも核戦争が起こりそうな相当な緊迫感がありました。その緊迫感が伝われば良いかと思いました。
キューバ危機に対して今回のウクライナ侵攻については、核による威嚇をさせないようにするにはどのようにしたらいいのか、という難しい内容ですから、小学生から大人まで最大公約数の皆さんに伝わるようにどう実現していくか、ということが一番重要なのではないかと思います。 

【委員】
核兵器の展示について、1つ目はアップデートが必要と感じました。
2つ目は前回や先生方もご指摘されたとおり、今ウクライナで我々の想像以上にロシアが戦術核を使用する可能性が高い状況です。もしもロシアが核を使うとなると、多くの方々が実際に使われた姿を見て、長崎の原爆資料館への思いを強くし原爆の恐ろしさを感じるであろうと思います。勿論起きては好ましくないことですけれども。
そのようなことが起きないように、長崎が戦争で核兵器を使用された最後の都市、という非常に重要なメッセージを可能な限り長く続けなければならないのですが、国際情勢は思った以上に、ここ5年ほどで一転しています。
私は国際政治学が専門ですが、2009年オバマ大統領がプラハで「核兵器のない世界」の演説をし、2016年広島を訪問し核兵器廃絶を誓いました。この頃は世界的に核軍縮あるいは核廃絶というのが大きな潮流だったと思います。
しかし、2019年トランプ大統領がINF条約(中距離核戦力全廃条約)からの撤退をプーチン大統領と共に訴え、トランプ大統領とプーチン大統領がいわば協力して核戦力の条約から撤退しました。その背景には、冷戦中の軍縮条約はほとんど米ソを対象としたものですが、中国が急速な軍拡を進めていて2030年までには核保有数が350から1500に上がるのではないかということがあります。中国の核保有数が増え、ウクライナでは核兵器が使われる恐れがあり、核兵器が戦争には必要であるという認識が世界に広がっています。この危機感を前提として、なぜこのようになってしまったのかということを、アップデートする際には何らかの形で来訪者に考えてもらう機会が必要ではないかと感じています。
長崎の原爆資料館と異なる方向に今世界が動いているということ、少なくともオバマ大統領が2009年プラハ演説した頃とは随分と変わってしまい、ここ5年程世界が大きく核戦争へ向かって動きつつあることを理解してもらうと同時に、これまで戦後、核廃絶のために努力・貢献した方たち、政治指導者、知識人、あるいは市民の活動家などの個人をクローズアップする、といったアップデートができれば、来訪者にとって有意義なものになると思います。 

【副会長】
更に具体的な提案を含め、もう少しご意見いただきたいと思います。
方針についても、半分は理念になるかと思いますが、例えば委員ご発言の技術的な面はまだまだ設計の際の話になるかとは思います。私の感覚ですと、やはり理念の部分をきちんとしておかないと、後々ゆり戻しにもなりかねませんので、その辺りも含めてお話いただければと思います。どなたかご意見がありますか。 

【委員】
原爆資料館ですから「核兵器のない世界」を目指す、世界は確かにそれを求めているのですが、国際政治を遡って考えると、ベルサイユ講和条約で世界が求めたのは「戦争のない世界」です。戦争のない世界を求めて国際連盟を作り、失敗したものの再び平和を作り維持するための国際連合を作っている。国際連盟も国際連合も、戦争を起こさないために兵器をなくす必要があるという、そういう大きな枠があって、その中で私たちは1945年から核兵器という一段階レベルの違った兵器が現れ、委員が言われたとおり、長崎が戦争で最後に核兵器が使われた都市になっています。核兵器のない世界というものを目指すけれども、元々は戦争のない世界を目指すという大きな軍縮の中の核軍縮ということではないかと思います。 

【副会長】
それを展示に反映させようということですか。

【委員】
具体的には分かりませんが、そのような位置付けということで議論を進めていただきたいということです。

【委員】
具体的な話が必要ですか。

【副会長】
今日結論を出すつもりはありませんが。

【委員】
「原爆投下への道」は、現状でいいかなと思いますが、「核兵器の時代」は、上段・中段・下段の3段階で展示されていて、構成が分かりにくいですよね。背景や国際政治、市民運動、それぞれ一つの塊として分けた方が、上段下段で追うよりもいいのではないか、年表よりもストーリー性を持たせて焦点を当てて展示する方が良いと思います。

【委員】
理念とするには、やはり来訪者、特に若い人に、どうすれば核兵器を失くせるか考える材料を与える、ということが大事と思います。核兵器開発の歴史に加え現在の国際情勢については、専門外の方にとって非常に分かりにくい分野ですから、どのように視覚に訴える展示の仕方をするかという工夫が必要だろうと思います。現代の核兵器、核弾頭数等の単なるアップデートのみではなく、どのようなトレンドを示しているのか、という点が非常に重要で、ロシア、アメリカ、中国、増えてきている国と数の変遷も一つ加えた方が今に生きる我々の抜き差しならない状況を理解してもらえるのかなと思います。
一つ気を付けたいのは、ヘイトを誘発する展示は良くありませんので、確定した事実に焦点を当てていく必要があることです。
また、視覚に訴えるというのは非常に重要と思います。先ほど話題にあったプラハ宣言のビデオを出すことは可能と思います。委員が言われたように平和運動に貢献した方々のビデオや、写真を展示するなど、現代の方たちにはキャッチーではありませんので、視覚に訴えるのは大事かと思います。

【委員】
1945年から核兵器の時代が始まりましたが、もう少し前の1930年代、核物理学者アインシュタインの相対性理論がスタートとなり、アメリカという国が核開発に成功しています。こういったサイエンスと兵器、あるいはサイエンスと実際の核の問題、アメリカに亡命してからのアインシュタインがルーズベルト大統領に手紙を書いたことなど、人類が核兵器を生み出してしまうという歴史があり、自分たちが明確に核の時代にいることを人類はまず理解すべきではないか、そこが今の展示では少々薄いのではないかと思います。あとは非常によくできているものもたくさんあって、良いかと思います。

【副会長】
国際情勢については、様々な国名が出てきてしまいますが、このあたりの考え方をどのように整理すればいいかという点から、委員お願いします。

【委員】
副会長が言われたとおり、いかにして中立的で多くの方に受け入れていただける展示を作るか、ということは先生方ご指摘しているように重要な点だと思います。
やはり大きな情勢として、例えば2019年INF失効やプラハ演説等の事実は言及しやすいと思います。更に、既に発効している核兵器禁止条約、NPT条約、このあたりはここ5年程度で新しくなったり行き詰ったりしています。従来はNPT条約という確固たるものがありましたが、核兵器禁止条約が出てきて、全体として我々はどう見たら良いのか、前進なのか後退なのか、現在の状況がどうなっているかを見せることは、来訪された方にとっても意味深いかと思います。
内容以外も、若い方に如何にして親しみやすい形で作るか、例えばYouTubeや動画と組み合わせるとか、世界の博物館でAR、ITと組み合わせるようなものもより広がっていて、若い方たちは、こちらの想像以上にこのようなデバイスに慣れていますので、例えばビデオというのは一定の時間でスタートする形になりますが、世界の主な博物館では、オンデマンドで液晶パネルのボタンを押すとその場で3分程度の短い動画が待たずに見られるとか、それほど大きな費用をかけずに、ITを活用し若い方たちにアウトリーチする展示ができればなお素晴らしいのではないかと思います。

【委員】
後で申し上げようと思っていましたが、委員が言われていた視覚に訴えるという点で、被爆者の方の証言が現在はビデオで流れていますが、それを何らかの形でAIを使ってインタラクティブにすると良いと思います。

【副会長】
今のテーマでのキーワードを私なりにまとめますと、「ストーリー性」「考える場・考えさせる場」「アップデート」「視覚に訴える、特に若者への訴求」、これらが挙げられるかと思います。

(2) 被爆医療や放射線等に関する展示

〈担当委員より説明〉

【委員】
学生に原爆の実相、健康被害について講義する機会がありますが、学生は長崎出身が多く「平和教育は受けてきたものの、放射線の生体影響については初めて聞きました」、という方が多いです。このことから、基本的な放射線の影響については、まず図示することが大切だろうと思います。
例えば最近の知見では、細胞に放射線照射をし、それをリアルタイムで撮影(タイムラプス機能)して、どのようにDNAが傷つき修復していくかの様子を撮影することができます。実際に放射線を当てた後に、傷が治る様、あるいは治らない様を展示する、ということもできます。
放射線の被害は核兵器だけではなく、チェルノブイリや福島など、自然災害あるいは人工的な災害にも起こりますが、原爆と原発事故と異なるのは、外部照射と内部照射、高線量と低線量、様々な違いがありますが、核兵器は原発事故とはまた違う影響が多く見られる、ということを知ってもらいたいと思います。内部被曝は影響が甲状腺だけですが、被爆は全身影響で、全く違うものが起こること、それと疫学として研究されてきたというのがあります。
これは委員がよくご存知ですが、放射線の影響としてはがんが一番大きく、白血病とそれ以外のがんもありますし、放射線によって起こるがんのメカニズムは、少なくとも2種類以上あります。そのような非人道的影響を核兵器は人間に与えたのです。ライフスパンで長く健康被害に影響を与え、それが精神的被害に繋がっているということですね。これらをシステマティックに理解してもらえる展示が、今後必要ではないかと思います。

【委員】
放射線被害のコーナーが現在もありますが、このスペースで被爆者の人体影響についてストーリーを描くというのは至難の業であると思いました。各々の展示はよくできていますが、ストーリーを描けないかと思います。
本日配布している資料は、レクナより依頼されて私が1945年から2018年までの期間を総括したものですが、レクナのJ-PANDという雑誌に掲載されてから参照数が増え続けていて、現在は8万を超えたそうです。驚くべき数です。それほど現代の人々、大学の教員や学生が多いとは思いますが、いかに原爆に対する関心が高いか、ということかと思います。
3ページ「原爆直後の死と早期致死」で死亡率、原爆直後の広島型・長崎型の違いなどを上げています。1.5キロメートル以内になりますと死亡率が高いです。
実際人間がどういう状況に陥ったのかということは、5ページ被爆後2日目の朝、ここから初めて写真が撮れますが、熱線と放射線、爆風、谷口稜曄さんの背中の写真、このような人体影響は、先程委員のお話にもありましたとおり、単に放射線だけの問題ではありません。それをどのようにストーリー性を持たせ、人の一生をカバーする人体的影響が起こったかということを見られる展示にならなければいけないと思います。
重要なことは、最初に白血病やがんが出始めた際は、ある程度の年月で収束していくのだろうと専門家も簡単に思い込んだものの、時間が経つにつれ、半世紀を超えてからもなお、がんが発症したり新しいMDS(骨髄異形成症候群)などの病気も発症したり、続いているとうことです。「生涯持続性」が、最近の大きな特徴になってきています。
20ページ「原爆放射線の遅発性障害」、初期の白血病も遅発性の分類に入ります。3、4年後から特に小児の白血病などが出てきます。それから、中長期の様々な種類のがんを21ページに書いています。研究が進み、特に被爆線量の推定が、X線軸のシーベルトが上がるにつれ今度は縦の線のY軸の方はがんも発生率が上がります。そして最後に、生涯を通して被爆者はずっとがんの発症が続いていくことが確認されているのです。このようなストーリー性が理解できるような訴え方をしないといけないのではないかと思います。
最後に一つ申し上げたいのは、なぜ発がんするかという基本的な仕組みについては、遺伝子の変異の蓄積で発症するということが明白に分かってきています。現代は3人に1人、男性は2人に1人が、生涯に一度はがんにかかる状況ですが、放射線を特定できる被爆者集団のデータの意義は非常に高いです。普通はがんになった場合、原因の特定は難しい。ところが被爆者は統計をとっていて、かつ被爆との関係があるため、綺麗に見ることができます。発がんのプロセスを理解する非常にいいモデルになっています。被爆者が長年逃れられない、いつかは自分ががんに、という不安が現在も続く、というストーリーになります。
そこで新しいAI技術を用いてDNA損傷や修復、修復のエラーでがんが起こるなどの仕組みを、詳しくし過ぎると非常に難しいですから、分かりやすく表示していただきたい。

・事務局より現状の展示について資料内容を説明

<協議内容>

【副会長】
まずは、目指す姿・状態について、事務局からも何点か示されましたが、皆さまからご意見お願いします。
議論をお聞きしているなかで思ったのですが、この小委員会は恐らく3、4回開催され、小委員会としての考え方のまとめ、整理したものを審議会に報告する機会があると思います。私からのお願いになりますが、委員の先生方が忘れないうちに自分の発言した内容を振り返り、専門用語や思い入れの熱量がそれぞれ違うと思いますので、簡単なメモ書きあるいはA4の1ページ程度に記録するといった作業をお願いできればと思ったのですが、いかがですか。

-賛成-

後で事務局にも相談しないといけませんが、次の小委員会の例えば1週間前までに集約して、積み上げを小委員会の理念としてまとめる必要があるのかなと思います。それがまた次の更新、例えば10年後か20年後か分かりませんが、100周年のときに大規模な改築をするような場合にも、今日のような議論の一歩一歩が大切だと思います。そのような意味で先生方に作業をお願いするかもしれませんが、一つよろしくお願いいたします。
それではまた10分くらい時間をかけて、特に先程の放射線についてお話をお願いします。

【委員】
医学的な写真を展示しようとすると相当な分量になり不可能ですから、今のような展示の仕方になっていると思いますが、そこにストーリー性を持たせようとすると、来館者が理解しながら進むとなると時間もかかります。大きな改修をせずに今のスペースを最大限利用し、今の展示を利用しながらの更新ですので、そこが一番難しいところかなと思います。

【委員】
私もこの被爆の影響の展示をどの程度のボリュームにするかというのは問題だと思いますが、視覚に訴えるということが医学的な映像でも可能ですので、二次元コードなど利用すればスペースの節約と同時にインパクトがあるかなと思います。
放射線と健康被害を語っていくうえでは、急性症状から晩発生の影響といったものまでありますし、具体的な病名など、分かりやすくしないといけないと思います。
また、講義をしていてよく聞かれるのは、二世の影響についてです。二世への影響は、今のところ、現代のサイエンスにおいてもまだ分かっていません。胎児被爆の影響はあり、新しい知見もありますので、展示できればいいかなと思います。
以前に胎児を展示していたことがありますか。それを見てショッキングだったから展示は控えてほしいという電話を受けたこともありました。インパクトがありすぎてもいけませんので、気を付けないといけないなと思います。
要するに、どのように健康影響を展示するかについては、テクニカルな工夫をしていくことが必要かと思います。

【委員】
人間に対する健康被害については、例えば一般の診療においても医師の説明時には、患者に伝わりやすいように写真やグラフなどを使用します。多くの文字を読まなければならないのは読む立場からも辛いので、短い時間で通過していく方たちに分かりやすくするような写真等利用しながら短い文章で伝えるといった工夫を取り入れていくのがいいかと思います。委員の論文を拝見しても、グラフや写真とかで「見える」もので短い文章で説明されています。
更にコンパクトにという展示のもう一つの難しい山がありますけども、方向性はそうかと思います。

【委員】
専門外ではありますが、外交や国際政治の観点から言いますと、世界は核兵器を単なる 大きな爆弾と捉えていると感じることがあり、政府のみならず核軍縮のNGOですら、核軍縮に関心を持たせるため、きのこ雲のロゴを使ったことなどがありました。
ただの大きな爆弾ではない、という点が一番重要だと思いますが、展示として見せる際に、視覚的に分かりやすい、きのこ雲に代わるロゴのようなものを、放射線自体が目に見えないもので被害は被害で見えるとしてもそれはなかなか難しいですが、目に見えるデザインを長崎から発信できれば、それを皆自由に使えるように、核はこういうものだと説明することができないかなと思います。

【委員】
先程からお話が出ているITやロゴを使ってというのはいいアイデアで、特に小中高大の、若年層に対しては有効に使えるのではないかと思います。
もう一つ別の話ですが、当時7万5千人程度の方が亡くなられ、生存者が7万人程度、 平均年齢85歳、様々な病気で亡くなっておられます。外国からの質問を受けまして、戦後何人の方が原爆で亡くなっているのか、原爆を要因とする死亡者数ですが、手元に持ち合わせがなく答えられませんでした。例えば白血病で亡くなられた方がいたとして、一般にかかる白血病もありますし、原爆による死者数を数えるのは大変です。これは今後の大きな課題ではないかと思います。
死没者名簿には、被爆者手帳を持つ方が亡くなられたら全て登載するのでしょう。全て原爆死ということになるのでしょうか。例えば被爆80周年の時に数字を出せるかという問題がありますよね。統計データはどうしても確率でいきますから、3、4割程度は放射線の影響、等とするのか、それとも確率論は無視して被爆者手帳を持った方が亡くなられたら全て原爆死とするのか、これまで議論していないのではないかと思いますが、長崎市は議論して何か考えを持っていますか。外国から手紙がきて初めて、なるほどと思いました。

【事務局】
申し訳ありませんが、ただ今答えを持ち合わせておりませんので確認させていただきたいと思います。

【委員】
すみません、関係が薄いことを聞きました。

【副会長】
次回の宿題ということでいいですか。お願いします。

【委員】
依然として何割かの人が原爆の影響で亡くなっている、などの文章で示す以外ないのかなと思います。

【委員】
英語で被爆者とは「survivor」や「victim」と表現されますよね。「victim」は急性被爆障害で亡くなった、解剖された方もいますし、そういった方は間違いなく「被爆死」です。放射線の影響で亡くなった方は「survivor」という言葉もありますが、それが4か月の間で亡くなった方は「被爆死」だと思います。その後、腫瘍で亡くなった方の定義が非常に難しくて、被爆者集団のうち、2グレイ以上放射した場合は発がん率が60%となりますが、そのがんの方たちの中から何人亡くなるか、というのはその当時の医療の質にもよりますし、非常に難しい問題を含んだ数になってくると思います。

【委員】
長崎の原爆資料館において、原爆の被害と実態に関する資料というのは最も価値があるもの、来訪者の方にも強い印象を与える展示だろうと思います。私自身も大変な強い印象を受けました。医学的・科学的に多くの知識が必要ということで、恐らく小学生・中学生の方たちにどうしたらもう少し分かりやすくなるかということですけども、スペースの問題もありますし新しいITの技術等も含めると可能になることもあるのかなと思いました。
同時に、想像以上に原爆被害の実態というものは、特に海外からの来訪者にとっては衝撃的な内容だと思いますが、長崎が原爆被害という実態に向き合い非常に短期間で復興したこと、想像以上に長引く被害があると同時にそれを克服するために努力をしてきたその様々な試みというものを、これから勿論核兵器は使われることがなければそれは最も望ましいのですが、原発事故も含め世界で同じ様なことが起きたときに、長崎がどう乗り越えてきたかというのも価値があるものではないかと、いかに被害が長引き、多くの人たちを苦しめているかということとともに、長崎の様々な知見や努力の成果というものも併せて展示をすれば、海外の方に足を運んでいただけるようなものになるのでないかと思います。

【副会長】
一通りご意見いただきまして、残り時間も20分程度となりましたので、今日の2つのテーマについてもう一周ご意見を、今日の議論を聞いて何を思ったか、振り返りも含めて一巡お願いします。お一人5分程度ありますので思いの丈を述べていただきたいと思います。

【委員】
キーワードとして、「ストーリー性」「複雑さがあることをシンプルに分かりやすく」「メッセージ性」が挙げられると思いますが、メッセージ性としては「二度と使われてはならない」というのが共通の思いだと思います。
また、放射性の被害をもっと強調する形で、かつデザイナーによるロゴなどを使用してはどうか、と思います。

【委員】
今日は特に被爆医療や放射線という分野の話を聞き、委員も言われたように、核爆発による被害というのは、焼け跡の写真や建物が破壊されたりだけではなく、放射線による被害というものを別物だと考えないといけないと思いました。原爆というものを抽象的に思っていた自分にとっては放射線の影響がこのように大きいものかとショックを受けましたが、的確に説明し読んでもらうことで、核兵器を失くさないといけないという気持ちを醸成することが大切かと思いました。

【委員】
国際情勢も放射線の影響も、複雑で難しい分野です。そこを如何に分かりやすくするかというのが重要なのですが、もう一つストーリー性が必要というご意見が出ました。
資料館がどのようなスタンスで展示をしていくか、非常に大きなテーマだと思います。放射線の健康被害の影響の非人道性、それと矛盾する形で核兵器をめぐる世界情勢というのは戦後から変わっていない、むしろ危機感が増してきています。上手く説明することが必要なのではないかと思います。
負の側面ばかりですが、放射線影響の非人道性、核の国際情勢は絶望的、相反する人間の性、失くしたいけれどもこういったものがまだ存在するといったことを伝えていくべきだと思います。それにプラスアルファ未来もあるということを伝えないと、若い方には響かないですよね。惨憺たる気持ちで出ていくのかそれとも希望を浮かべて出ていくのかということがありますので、理論としては現実を伝えることも非常に重要ですし、テクニカルに視覚に訴えて、ということも重要、コンテンツを見て感じてもらって将来への希望を持つことができる、そういったスタンスの資料館になればいいなと思います。

【副会長】
小委員会の論点の中には先生が言われたとおり、未来志向の展示について、今後のテーマにする予定です。引き続き温めて議論していただければと思います。

【委員】
内部被曝も新しい知見が出てきています。委員の教室でされていたことですが、爆心地近くで解剖された遺体からの発見や、二世について遺伝子研究を放影研が行う、ここが突破口になるかとかについて、入れるべきかと思いました。
委員の専門のところで、軍縮の歴史、冷戦のときもかなり際どく米ソの首脳会談が行われまして、残念ながら最終的には決裂したりして成功はしませんでしたが、現在の位置づけとしては、5大国の調整がまた始まったと聞きましたが、戦争の最中に、実際はどうなのでしょうか。

【委員】
NPT再検討会議が始まりましたので、NPTに向けた実務者レベルでの協議ではないかと思います。それは昔から行われていまして、米ソ間緊張していたときも最低限の協議として続いています。

【委員】
国際的なコンセンサス事項というのは保持され、なんとか元通りにしたいと動いています。そこに希望を持てるかどうかという視点も必要ではないかと思いますね。80周年の段階でそれがどうなっているかは分かりませんが、核軍縮の営みは続いていくのではないかと思います。展示にまとめていくということはなかなか難しいでしょうが。

【委員】
何らかの対話のチャンネルが残っている、今の時代であってもそういうものがある、ということは示せるかもしれません。それなりに条約とか提示することになるかもしれませんが。
例えばプーチン大統領がNPT条約というものを意識して動いているのかは極めて疑問ですが、実務者レベルの外交官、ハイレベルではなくとも中堅レベルではそれなりに理解して、目立たない形で動いている、ちょっとした協議とかはあると思いますが、それが大きな動きに繋がるかどうか、と思います。ただ、時代というのは必ず動きますので、今第3の核の時代といわれていますが、展示では現在の次のスペースを空白の部分にして、「次は非核の時代なのか」等、将来に向けての展示も可能ではないでしょうか。

【委員】
それはいいですね、確かに。

【委員】
既に先生方が言及されているとおり、何らか癒しといいますか、希望を伝えるものが展示の最後にあると、また来たいと思っていただける芸術的なもののスペースも合わせてあると良いのかなと思います。例えばベルリンのホロコースト博物館は大変芸術性の高いモニュメントで、年間50万人を超える方々が来訪されています。そういった芸術性を含めた形で、空間全体で印象的なものを作っていくのがいいと思います。
あわせて、振り返りになりますが、冷戦後、20年30年続いてきた国際協調が、この5年くらいでいろんなところが崩れています、これは今後10年20年続いていく可能性もありますし、もしもロシアが「核兵器を使って戦争に勝つ」ということにでもなれば、今後一気に核兵器の有効性が拡がっていくということになりかねません。
そういった意味で、希望を描くといったことと同時に、長崎から世界に向けて核兵器というものを二度と戦争に使ってはいけないというようなことのメッセージを、ストーリー性という意味でも伝えていく役割があるのではないかと感じています。
そういった緊張の中でも、今の世界の動き、国際協調が大きく崩れていることを何らかの形で代表者の方たちに感じていただきたいですが、同時にまた、全く国際協調の枠組みが崩れて対話が閉ざされたわけでもなく続いている、ということも分かっていただく、あるいは新しい動きというものも勿論ありますので、こういったものもお伝えできることができたらいいのではないかと感じています。

【委員】
委員のストーリー性の話の延長なのですが、政治指導者、僕のイメージとしてはゴルバチョフやレーガンなど、国際指導者の影響は大きく、彼らに期待する展示もどうでしょうか。

【委員】
冷戦では、米ソ、他も合わせてリーダーの重要性の解説の必要性はあります。ただそれだけに頼っていてはいけないので、ボトムアップもダウンも両方必要ということかと思います。

【副会長】
今日の小委員会は2つのテーマでしたが、今後は、全体のストーリー性、観覧導線や、原爆投下に至る歴史、歴史認識の問題というのもかなり底辺に流れているのかなと思います。また、未来志向というのもあります。
私が今日の議論のまとめというか、感じたことを一言だけ申し上げます。
いみじくも委員からご意見ありましたとおり、政治指導家の展示、思想の展示について、私がここ10年来、世界の博物館、特に中国、韓国、シンガポール、アジア、博物館があまりにも政治的メッセージ性が強すぎて、例えばハルピンの731部隊に行きますと、日本が完全に悪者です。
南京大虐殺記念館は、鳩山さんの土下座の写真が最後のメッセージのところにありますし、メッセージの伝え方というのをどういう風にしたらいいのかなと感じます。博物館はお客さんがたくさん来られます。今日も展示室を見てきましたが、修学旅行か学生さんが見ているところに解説員がおられますね、展示物に介在する解説員、ボランティアとか運営側というかそういう観点も議論しないといけないのではないかと思って見ていました。
九.一八歴史博物館は瀋陽にありますが、出口には巨大な「九.一八を忘れることなかれ、周恩来」と書いてあります。長崎だけでなく日本全体の議論にもなってきますが、歴史認識の問題、あるいはターゲットをどこに置くのか、国内の修学旅行生だけでなく外国のお客さんも多いようですし、広島のように各国の首相が来るようなこともあるでしょうから、そういったことも考えて次の議論をしなければいけないと思って聞いていました。

【委員】
メッセージ性は必要ですがプロパガンダにならないように。バランス感覚が大事であろうと、普遍的なメッセージをと思います。

【副会長】
日本人として、長崎からのメッセージを如何に伝えるか、この委員会の位置付けを、先生方のご意見を蓄積した理念書ができればという思いがありますので、今日の議論を忘れないうちにメモしていただきたいと思います。それでは事務局へ進行をお返しいたします。

【事務局】
本日は、長時間にわたり貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。
次回の小委員会は、後日日程の候補日をあげて調整したいと思いますが、できれば8月中開催できればと考えています。また、テーマは、原爆投下に至る歴史に関する展示、若い世代に自分事として捉えてもらうための展示、未来志向の展示を予定しています。
先程会議の中でもありました、意見の集約についても併せて事務局の方から連絡いたします。
以上で、第1回小委員会を終了します。

お問い合わせ先

総務部 行政体制整備室 

電話番号:095-829-1124

ファックス番号:095-829-1410

住所:〒850-8685 長崎市魚の町4-1(9階)

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