発見!長崎の歩き方

「魅力再発見!長崎の夜景」


港を取り囲む斜面地まで広がる町灯りが長崎夜景、最大の魅力。鍋冠山より

長崎の夜景は、町灯り。ひとつひとつの灯りの向うには、人々の営みがある。この長崎の夜景が平成24年10月、「世界新三大夜景」に選ばれた。世界の注目を集める長崎夜景をテーマにした楽曲『長崎夜曲』の誕生秘話と共に、その魅力の再発見に挑む!

ズバリ!今回のテーマは
「五感で楽しむ長崎夜景」なのだ。


長崎の夜景は町灯り。その灯りは、暗闇に浮かぶ月明かりのごとく、人々の心に瞬時に“温もり”を与える不思議な力を持っている。寒空の下、街じゅうを彩る「ランタン」、暗黒の海に浮かぶ「造船所の巨大クレーン」、真夏の墓域に瞬く「盆提灯」……気がつけば、私達長崎人には、いつも心に住みついている「夜景」の存在がある。


街じゅうが華やかなランタンで彩られる中国の旧正月を祝う「長崎ランタンフェスティバル」風景

「世界新三大夜景」長崎!
選ばれた基準を知っておこう

昨年10月5日、一般社団法人「夜景観光コンベンションビューロー」主催の「夜景サミット2012 in 長崎」が開かれ、モナコ、香港、長崎の3都市が「世界新三大夜景」に認定された。この知らせは、長崎市民にとって思ってもいないビッグニュースだった。なにせモナコ、香港はいずれも有名な観光都市。長崎も国内では引けを取らぬ観光都市ではあるが、なんといっても規模が違う。選ばれた決め手はなんだったのだろうか?

そもそも、「日本三大夜景」、「世界三大夜景」というブランドは、いつ誰が決めたものか、定かではなく、1950年~60年代にかけての日本の高度経済成長期に旅行会社が商品造成の際に発信したものではないかと推測されている。しかし、思えばそれから50年もの月日が流れている。この間、日本はもとより、世界中の多くの都市景観もすっかり様変わりした。そこで、新たな時代にふさわしい「夜景」を選出しようと、「夜景観光コンベンションビューロー」が発足したのだった。

今回の選出の基準は、これまでの日本三大夜景の基準であった「港町の夜景であること」を踏襲する一方、時代に即したものとして、次の要素が評価基準に加わった。それは、「魅力ある夜景が楽しめること」「夜景観光への取り組み」
対象は世界のあらゆる夜景すべて。これを検証し、これに該当する夜景として【モナコ】【香港】【長崎】が「世界新三大夜景」として選出されたのだ。

モナコと言えば、“地中海の宝石”とも称される美しいリゾート地。そんなモナコの夜景、最大の特徴は、まるごと一国の夜景が楽しめるという、世界的に珍しく貴重な夜景だ。

一方、香港も国際的な夜景観光地とでも言うべき、古くから「夜景と言えば、香港」という程、カラフルなネオン夜景の名所として知られる都市だ。

実は、検証基準は、さらに細かく定められている。
〈世界新三大夜景認定に向けた検証11項目〉
A.魅力ある夜景が楽しめること
1.対象となる都市を象徴する俯瞰的夜景が存在していること。
2.鑑賞できる俯瞰的夜景に対してアプローチ可能な複数の視点場が存在していること。
3.これら複数の視点場は対岸・対山等に分散し、それぞれが異なる表情を創出していること。
4.視点場が整備され、安全性やバリアフリーが確保されていること。
5.視点場へのアクセスが整備され、充実していること。
6.対象となる都市において、夜間の観光的魅力を高める演出照明(ライトアップ)があること。
7.複数の視点場において、夜間の鑑賞時間が比較的長く設定されていること。
8.対象となる都市において、複数の夜景種類が混在し、鑑賞可能なこと。
B.夜景観光への取り組み
1.行政や地域団体、民間企業が夜景に対する観光的取り組みを行っていること。
2.対象となる都市において、歴史的及び文化的夜間イベントがあること。
3.国際的な観光への取り組みに積極性を持っていること。

では、この検証基準に【モナコ】【香港】両都市を当てはめてみよう。

【モナコ】


一国の夜景が楽しめるモナコ

A.魅力ある夜景が楽しめること
エルキュール港の両岸の丘陵部には、俯瞰可能な視点場が分散し、日本の国内では見ることが出来ない豪華クルーザーが停泊する魅惑的なマリーナ“エルキュール港”の夜景のほか、安全性が確保された街並みが瀟洒(しょうしゃ)な表情を浮かべる「市街の夜景」など、異なる表情の夜景を鑑賞することができるという。
B.夜景観光への取り組み
大公宮殿やグラン・カジノにみる歴史的建造物が闇夜に浮かぶ「ライトアップ」や花火等の「夜のイベント」等、夜景の種類はもちろん、夜間イベントも豊富。公式 HP に夜景専門ページを設けるなど、夜景を活用した観光的取り組みも進んでいる。

【香港】


華やかなネオン夜景が特徴的な香港

A.魅力ある夜景が楽しめること
国際的な夜景観光地であるビクトリアピークと対山のカオルーンピークの俯瞰可能な二大視点場を有し、香港の港を中心とした全貌を体感できる。
B.夜景観光への取り組み
香港銀行等の先進的なライトアップ、「シンフォニー・オブ・ライツ」の都市をまるごと活用した大規模な光のショーのほか、香港島、九龍半島、ランタオ 島には、リゾート夜景や埠頭夜景等の様々な夜景の種類が点在。1泊、2泊 滞在しても全てを眺めることが難しい程の夜景資源が豊富である。香港政府観光局は夜景PRを継続的に行い、HPにおいても独自の「香港夜景美術館」を立ち上げ、ソーシャル的な取り組みも行っている。

長崎の夜景の魅力とは?
長崎港を取り巻く歴史、景観

そう考えると、【モナコ】【香港】に負けず劣らず、長崎市もここ十数年、ライトアップや様々な祭事において、夜景観光に力を注いできた実績がある。しかし、「港町の夜景であること」という条件をクリアしたライバルは国内にも数多い。そう! これまでも「日本三大夜景」に名を連ねてきた「神戸」「函館」だ。競合ひしめく日本国内の激戦を制し、我が長崎が選ばれた理由を考えてみよう。

【長崎】


宝石箱をひっくり返したかのような長崎の夜景

A.魅力ある夜景が楽しめること
長崎は、元亀2年(1571)、ポルトガルの貿易船とともにやって来たキリスト教宣教師によって開かれ、国際貿易港として発展。町はこの港を中心に繁栄していった。その歴史ある港町としての情緒溢れる夜景は、長崎港を取り囲むすり鉢状の地形の賜物であり、稲佐山・鍋冠山・風頭公園など の多方向から俯瞰的な夜景を鑑賞することができる。それぞれの視点場からは、異なる風景が楽しめるのも長崎夜景の魅力で、周囲の山々の中腹辺りを走行する車からは、まるで星屑か、はたまた宝石箱をひっくり返したかのような光景に出会える。
B.夜景観光への取り組み
大浦天主堂、出島、女神大橋、眼鏡橋など、観光施設のライトアップや、街なかに突如現れる観覧車などのアミューズメント夜景など、夜景種類も豊富。また、街が最も輝きを放つのが、中国の旧正月を祝う祭事「長崎ランタンフェスティバル」の夜間のイベント。夜景による観光パンフレットやHP「長崎ノ夜景」(http://www.at-nagasaki.jp/yakei/)、夜景ナビゲーターの養成など、ソフト&ハード両面のバランスも整い、国際的な夜景観光に積極的に取り組んでいる。


ライトアップされた国宝 大浦天主堂


水辺の森公園からは、様々な装いを見せてくれる女神大橋のライトアップが楽しめる


長崎港口を正面から見下ろせる立山公園からの夜景

というわけで、次ページでは、この「世界新三大夜景」に選ばれたのを機に、長崎の大いなる魅力のひとつであるこの「夜景」を起爆剤とした「夜景観光」をパックアップしていこうと立ち上がった人々を紹介しよう。


【次頁につづく】

発見!長崎の歩き方

「魅力再発見!長崎の夜景」

昨年12月、この長崎の夜景をテーマにした楽曲が、世界的ヴァイオリニスト、葉加瀬太郎氏によって生み出され、市民に発表されるというビッグニュースが舞い込んだ。テレビ番組「情熱大陸」の主題曲をはじめとした多くの楽曲を世に送り出してきた葉加瀬太郎氏。まさか、あの葉加瀬太郎氏が……。誰もが耳を疑ったこの楽曲誕生の裏側には、大きなドラマが隠されていた。

長崎を愛する青年達の熱意が生んだ
楽曲『長崎夜曲』

今や市内の様々な場所で耳にする、音楽。心をほっこり温めてくれるような、ヴァイオリンの伸びやかで優雅な旋律が印象的だ。煌めく長崎の夜の情景が目に浮かんでくるような……『長崎夜曲』。この曲が誕生した事の発端は、長崎商工会議所青年部(以後、長崎YEG)が平成24年度に作成した「政策提言書」だった。

◆視聴はこちらから⇒『長崎夜曲』

長崎YEGとは、地域経済の発展に寄与する長崎市内の若手経済人の集まり。次代への先導者として、“文化的創造”をもって豊かで住みよい郷土づくりに貢献しようと各委員会を設け、協議、実践!日夜、長崎のために活動している。平成24年度、そんな彼らの視点から持ち上がった行政への政策提言のテーマが、「コンベンション」と「夜景」だった。そして、平成25年度には、前年度の政策提言を実際に実行に移す、ということを目標に掲げた――。


『長崎夜曲』誕生の功労者、長崎商工会議所青年部(YEG)の皆さん

「夜景」をテーマとした政策提言プロジェクトの考案にあたったのは「地域活性委員会」のメンバー。このプロジェクトは、「ながさきひかるプロジェクト」と名付けられ、「ひかりのまち長崎」を広くアピールするための施策についての協議が重ねられた。

その際、最大の問題点として注目されたのが、長崎市文化観光部への調査で明らかになった“長崎を訪れる観光客の8割が、夜景を見ていない”という事実。そこで、地域活性委員会メンバー達は、官民一体となった「大胆かつ効果的な投資」を行い、長崎の夜景、最大の魅力である「まちのひかり」「斜面のひかり」の充実を図り夜景力を高め、ひいては街の「防犯力」アップに繋げようと、様々な提言、具体案を寄せた。そんな度重なる協議の中で浮上してきたのが、「夜景と音楽との組み合わせ」。そして、いつしか委員会を束ねる藤本陽一郎委員長の頭の中では、葉加瀬太郎氏のヴァイオリンの音色と、長崎の夜景とが重なっていた。

すると、見切り発車ともいうべく、藤本委員長は葉加瀬氏のツアー先の福岡市に出向き直談判。アポなしにもかかわらず、葉加瀬氏は、藤本委員長が語る「夜景で地域活性化を試みよう」とする発想、そしてその熱意を受け止め、真剣に耳を傾けてくれたという。そして――。

「夜景を売りにするまではどこの街も考える。そこに音楽を付けるという発想が素晴らしい。僕にできることであれば応援していきたい」と、快く了承してくださった。


藤本陽一郎さん(YEG)

藤本さん「しかし、本当に大変なのはこれからでしたね(笑)」。

「世界新三大夜景」の名にふさわしく
国際的なアーティストを!

藤本さん「葉加瀬さんに了承してもらったとはいえ交渉が成立、という訳ではなく、そこから葉加瀬氏の事務所の社長と細かい打ち合わせに入っていくんですよね。もちろん何もかも初めての経験ですから、何をどうしていいのかわからない訳です(笑)」。

また、藤本委員長の提案に、地域活性委員会のメンバー達の意見は一致したものの、葉加瀬太郎氏の起用案は、長崎YEGの理事会では物議をかもした。
「地元にも素晴らしいアーティストがいるのに、なぜ、長崎に何の縁もない人に依頼するんだ?」
「予算はどうするんだ?」

しかし、藤本委員長をはじめとした地域活性委員会のメンバーは、長崎の街がこれから歩んで行く“未来像”が、最重要課題であると確信していた。それには、長崎を世界にアピールしてくれるような、ワールドワイドな活躍をしている方が望ましい。葉加瀬氏は、昨年、観光庁が制作する海外向けの日本観光プロモーションビデオのBGMも担当。まさに日本が世界に誇るアーティストである。本人の了承も得られた今、その信念を覆すわけにはいかない……そんな地域活性委員会メンバーの想いを理解し、GO!サインを出したのが、長崎YEG、平成25年度の井口潤一郎会長だった。そして、藤本さんと双璧を成す功労者が、のちに葉加瀬氏ご本人に「似てる」とのお墨付きを頂くこととなる(笑)地域活性化担当副会長の中村隆義さんだ。

中村さん「それからは、藤本委員長が“事務所側”、私が“長崎側”というふうに担当を分けて、細かい調整、交渉に当たっていきました。結局、理事会には、方々に協力を仰ぐ活動の許可をもらい、そこから地道な作業のスタート。長崎市文化観光部の池田部長にも協力を求めて、とにかく、市、県、地域振興、JR……様々なところに協賛してもらえるよう、お願いして廻りました」。


中村隆義さん(YEG)

最初は電話だった事務所とのやりとりも、なかなからちが明かず強行突破の直接訪問。なんとか交渉も成立し、9月20日に、今後の運営を統括していく「長崎夜景プロモーション実行委員会」を立ち上げた。そして、10月3日、六本木にある葉加瀬氏の事務所を再び訪問。このとき葉加瀬氏にも会うことができ、始めて楽曲制作についての話をしたという。

藤本さん「私達は、葉加瀬さんが長崎の夜景を見て感じたところで、曲を作ってもらえると思ってたいたんです。でも、このとき葉加瀬さんの口から出た言葉は、“一緒につくりましょう!”というものでした。そして“曲のイメージを教えてほしい”と言われました」。

そこで、藤本さんらが伝えたのは、「長崎の灯りは、家庭の温かな白い灯りであること」「港を取り囲む、すり鉢状の特異な地形が長崎夜景を生んでいること」「周囲の山々など、視点場が豊富なところ」……。その言葉を熱心にメモに取りながら、葉加瀬氏は「“故郷に帰ってきた”“愛する人と見たい”と実感する夜景、都会にはないノスタルジックな夜景ですね」と話されたという。


南山手の斜行エレベーター「スカイロード」から望む長崎夜景

こうして誕生した『長崎夜曲』。現在は、長崎市役所はもちろん、長崎空港、グラバー園など、多くの人が往来する公共施設において、ヘビーローテーションで流れている。

中村さん「この楽曲をいかに活かしていくか、来年の“がんばらんば国体”に向けても、小中高の吹奏楽部の皆さんに向けて楽譜を制作して配布してはどうか、などなど、今いろいろと検討しています」。

井口さん「これまでも政策提言は行っていましたが、具体的に実現できたのは今回のプロジェクトが初めてです。県と市の若い職員が集まって、夜景の在り方を考える検討会が発足するなど、夜景を長崎の資源として育てていこうと動き出しました。困難なことも多かったですが、今回の経験で、これまで縦割りだった行政のしくみに長崎YEGの存在が大きく作用できたと思っています。双方間のフィルター、あるいはパイプ役となって、これからも地域の発展に力を注いでいきたいですね」。


井口潤一郎さん(YEG)

この楽曲は、今後、葉加瀬氏の新しいアルバムにラインナップし、また、全国各地を巡るライブツアーでの演奏が予定されているという。葉加瀬氏が前々から幾度となく目にし、感動を憶えていたという「長崎夜景」。“長崎の夜景を五感で楽しむ”――その斬新な発想が、葉加瀬氏の豊かなイマジネーションによって、一曲の名曲となった。そして、この曲は、もはや長崎を愛してやまない、長崎市民、私達のものだ。『長崎夜曲』は、これからずっと、長崎の街に寄り添っていってくれることだろう。


最後に--。
“1000万ドルの夜景”と称される長崎の夜景。とにもかくにも、市内に住む人々は、その存在を心から愛し、常に誇らしく思っている。その証拠に、知人友人が長崎を訪れた際の観光コースに“夜景スポット”は欠かせないものだ。その魅力を発信し、多くの人と共有できる機会をもうけること。それが、国内唯一、「世界新三大夜景」に選ばれた長崎のこれからの使命だろう。いつまでも、私達の愛すべき「長崎夜景」でありますように――。


長崎港を取り囲む山々を埋め尽くす町灯りこそ長崎夜景最大の魅力。稲佐山より

参考ホームページ
「長崎ノ夜景」 http://www.at-nagasaki.jp/yakei/
商工会議所青年部ホームページ http://nagasaki-yeg.com/