かねてから海上から長崎を訪れる人々の玄関口であった長崎港は、今も昔もまるで湖のように静けさをたたえる美しい港。そして、この港を取り囲む山々のひとつである稲佐山は、長崎港とともに古くから多くの芸術家たちに描かれ、現代でもお土産グッズのモチーフになるなど、長く多くの人に親しまれています。
麓には、造船の町ならではの巨大クレーンが存在感を放ち、中腹には住宅地や絶好の景観を誇るホテル。また、長崎特有といえる昔から景勝地に多く造られてきた墓地があります。とはいえ、その大半はうっそうとした森林におおわれた大自然。山中をトレッキングすれば、イノシシなどの野生動物に出会うこともあるようです。
稲佐山が長崎市民に親しまれ続ける理由は多数あります。まずは、山登り、トレッキングに適した山の高さであること。小・中・高校生の遠足の目的地の定番であるため、稲佐山の思い出を持つ人が多い、というのもそのひとつでしょう。また、春には8万本のツツジが次々と花咲き、サンサンと降り注ぐ太陽の日差しの下で遊べる公園や、人気アーティストのライブも行われる野外ステージがあることもそのひとつです。そして何より市街地の中心地に位置するため、その景色を一望できる展望所があり、ロープウェイによるアプローチでもその美しい景観を楽しむことができることが、いちばんの理由かもしれません。長崎の恋人たちのデートコースの定番と言えば、稲佐山ですから……。実は、この稲佐山、明治32年から昭和20年の終戦まで、陸軍省の要塞地帯にすっぽりと収まっていたため、一般市民が山に入ることは許されていませんでした。昭和8年に稲佐山登山道路が開通。その頃は車自体が少なく舗装もされていなかったため、山に入る人は少なかったそうです。そんな稲佐山が市民に近い存在になったのは、稲佐山頂上にテレビ塔が設置された昭和34年のテレビ放送開始以降です。よくよく考えてみると、稲佐山からこのテレビ塔を取ってしまうと、稲佐山ではないような気もします。今やこのテレビ塔を含む姿が稲佐山の完成形フォルムであり、市街地の中心地にあるというランドマーク的要素も相まって、長崎人の心の原風景となっているのかもしれません。
いろんな角度から見る稲佐山、あるいは稲佐山から眺める長崎。いずれにしても今回は、キーワードを「稲佐山」とし、撮影ポイントをご紹介しましょう。
稲佐山の標高333mは、かの「東京タワー」と同じ高さ。坂の町長崎では、高低差があり、見る場所によってイマイチ高さを実感できませんが……。その親しみがわく高さ(低さ)から、「どこにいても見える」というようなことはありませんが、路面電車やバスに乗っていても、町なかを歩いていても、稲佐山を見つけたら、まちの風景と一緒に撮影してみる、というのはどうでしょう。東京タワーと同じ高さだと思ってポイントを探すと、面白い写真が撮ることができそうです。
日中、山頂にある展望台からは360度のパノラマの景色が見渡せ、晴天の日には、雲仙、五島列島、天草までも見渡せます。また、「夜景観光コンベンション・ビューロー」主催「夜景サミット2012 in 長崎」では、モナコ、香港、長崎の3都市が「世界新三大夜景」に認定されました。1000万ドルと称される長崎夜景の視点場のひとつである稲佐山からは、やはり360度のパノラマ夜景を楽しめるのが特徴。四方の山の斜面に貼り付くように建つ家々のあかりが灯りはじめると、まるで星屑か、はたまた宝石箱をひっくり返したかのような光景に出会えます。
離島からの帰りや、遊覧船での長崎港内周遊を終えて長崎港へ戻ってくる際、造船の町ならではのとても美しい風景に出会います。女神大橋をくぐり抜けるそのとき、稲佐山は左手にあるのですが、長く奥へと広がり、まるで違う山のような姿です。稲佐山と長崎港、市街地をフレームに入れると、長崎のまちのまた別の表情が楽しめそうです。
稲佐山のシンボルともいえる電波塔は、日没から22時までライトアップしています。通常は赤白3基の鉄塔が照らされるのですが、1時間に2回、0分と30分に季節ごとの色に演出しているほか、20時9分からは福山雅治さんが特別監修したイルミネーションショーを行うなどさまざまな光の演出を見ることができます。また市内で行われるイベントなどにあわせていろいろな特別演出を行っています。どんなライトアップショーが見られるのか、お楽しみに。
長崎市の不動のランドマーク、稲佐山。その姿、思い出は、多くの長崎人のアルバムに一枚はあることでしょう。あなたもぜひ、滞在中に出会った稲佐山のベストショットを撮影してみてください。そして、稲佐山を意識した長崎旅を楽しんだ後は、ぜひ稲佐山をモチーフにした長崎グッズをお土産にどうぞ。