長崎は豊かな自然にはぐくまれた素材のよさと古くから海外との交流を続けてきた特異な歴史を持つため、独特の郷土料理や異国の薫り漂う名物もたくさんあります。今回はその中でも中国の文化を色濃く残す普茶料理の紹介です。

隠元禅師は、いんげん豆やレンコン、ナスビ、もやし、すいか、なし、煎茶文化などを日本に初めて持ち込みました。そして、もうひとつ、卓袱同様、円卓を囲んでいただく中国の精進料理「普茶料理」も伝えたのです。普茶とは、「普(あまね)く大衆に茶を施す」という意味で、普茶料理は、法要や彼岸などの行事の後に僧侶や檀家が一同に介し、茶を飲みながら重要事項を協議する茶礼に出された食事が原型となっています。素材は、葛(くず)や大豆など植物性食品を使い、なかには、それを動物性の材料を使った料理に真似た「もどき料理」もあります。


普茶料理は中国の五行説でいう五味(酸、苦、甘、辛、鹹びん(塩辛い))や、五色(緑、赤、黄、白、黒)の考え方が重んじられ、食べる人の心が和む調理法が施されているのが特徴です。ごまや植物油を使うことで、栄養バランスの取れた、まさに医食同源(病気の治療も普段の食事も健康を維持するためのもので、源は同じであるという考え方)の模範となるような料理です。
豆腐にクチナシの花で黄色く色をつけ、卵焼きに見立てた物や梅干しを3日間塩抜きしたものを蜜で煮て上げた白仙梅など、どれも手の込んだ料理で、見た目にも美しく、素材が何なのか考えるのも楽しいものです。

また、十個並べると、六寸あることから、十六寸といわれる豆。普茶料理にも「トロクスンの蜜煮」なるものがあります。これになんと砂糖がかけられていました。これは薄味に煮て砂糖をかけているのではなく、普通に甘く煮てあるのですが、その上にあえて砂糖がかけられているのです。これは、長崎では当時砂糖が豊富で、禅寺といえども贅沢に砂糖を使っていたという名残なんだそうです。

精進料理というと、お腹がいっぱいにならないと思っている方も多いと思いますが、男性陣ももう入らないと言うくらいのボリュームでも、カロリーは1000kcal以下と非常に体にいい料理です。また、お酒にもとても合います。
幸いに長崎ではこの普茶料理をいただける黄檗宗の寺院がありますので、中国文化に触れながらぜひ一度は食べていただきたいものです。


バックナンバー:2009年10月ナガジン特集「長崎 伝統料理の魅力と謎」参照



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