「一口香」は、字を見ればその名の通り、ひとくち口に含めば香りが広がるお菓子という意味がわかりますが、「いっこっこう」という言葉の響きはなんとも不思議で、形状もまた不思議な長崎のお菓子です。


茂木の一口香として有名ですが、もともとは唐人が伝えた中華菓子で、昔は唐饅とよんでいたといいます。初めて一口香を食べた人は中が空洞なので、少なからず驚かれると思います。長崎のお土産に一口香をもらった人がこの饅頭には中にあんが入っていないと怒ったらしいという、真偽のほどは定かではありませんが、長崎っこの間ではまことしやかにささやかれている話があります。

なぜ中が空洞になるのかは、製法に秘密があるようです。一口香は麦粉、もち米、あめ、唐灰汁を調合したものが外皮で、砂糖、水あめ、ハチミツ、麦粉、唐灰汁を調合したものが中あんになります。外皮でこのあんを包み、丸くしてゴマをふり、窯で焼くと水分が発散する際に中あんがふくれ、外皮の内側について空洞となるらしいのです。

歯ごたえのある外皮は香ばしく、外皮の中側にくっついてしまった甘いあんとのハーモニーはなかなかのものです。子どもの頃、腕白な子が両手に一口香をはさんで、つぶしてから一気に口に入れるのをよく見かけました。試したことがありますが、妙に物足りない形と味になってしまっていました。やはり、一口香は空洞に味があるような気がしてなりません。優雅にいただきましょう。



【もどる】