納骨もおわったある日、亡くなった姑をたずねて
東京から、初老の男性がたずねてきました。
夫(姑の息子)は、お墓に彼を案内します。


(お墓の前)

男性 (息を切らしながら)
   はあっ…はあっ…。こ…ここが…お墓なのか。
   な…なんて高い山の上にあるんだ。

息子 長崎の墓は、みんなこげんあっとですよ。
   山登りんごとして、墓に来っとです。

男性 ああ、まったくだ。スーツに革靴なんて格好
   してくるんじゃなかったな。あははは…はぁ(ため息)。

息子 おいは、テレビでしか見たことなかばってん
   関東地方のお墓とは、えらいカタチのちがうでしょう?

男性 本当だね。文字が金ピカで、ものすごく派手だ。
   それに、墓石の横にあるこの「土神」って何だい?

息子 土の神さまです。
   お墓の土地ば、神さまから借りとるっちゅうしるしです。
   むかし中国から伝わった風習の、長崎には残っとっとです。

《訳》
男性 (息を切らしながら)
   はあっ…はあっ…。こ…ここが…お墓なのか。
   な…なんて高い山の上にあるんだ。

息子 長崎の墓は、みんなこんなかんじですよ。
   山登りみたいにして、墓に来るんです。

男性 ああ、まったくだ。スーツに革靴なんて格好
   してくるんじゃなかったな。あははは…はぁ(ため息)。

息子 ぼくは、テレビでしか見たことないですけど
   関東地方のお墓とは、えらくカタチがちがうでしょう?

男性 本当だね。文字が金ピカで、ものすごく派手だ。
   それに、墓石の横にあるこの「土神」って何だい?

息子 土の神さまです。
   お墓の土地を、神さまから借りているというしるしです。
   むかし中国から伝わった風習が、長崎には残っているんです。


(お墓からは、長崎のまちが一望である)

男性 それにしても、景色は最高だね。

息子 おいは知らんばってん、むかしは弁当ばもってきて
   墓で宴会ば、しよったそうです。

男性 そういえば、一軒一軒が升席みたいに塀でしきられてるなあ。

息子 おいも子供ん頃は、墓まいりに来てよう遊びよりました。
   花火ばしたり、爆竹ば鳴らしたり、墓とびばしたり。

男性 は…墓とびィ?

《訳》
男性 それにしても、景色は最高だね。

息子 ぼくは知らないんですけど、むかしは弁当をもってきて
   墓で宴会を、していたそうです。

男性 そういえば、一軒一軒が升席みたいに塀でしきられてるなあ。

息子 ぼくも子供の頃は、墓まいりに来てよく遊んでいました。
   花火をしたり、爆竹を鳴らしたり、墓とびをしたり。

男性 は…墓とびィ?


(お参りをすませたあと、ひと息つきながら)

息子 ところで、母とはどげん…

男性 お恥ずかしながら…メル友…だったんです。

息子 あいやー! メル友ですか!?

男性 お互い、いろいろ相談相手になってまして…。
   あの方は、お嫁さんと折り合いがよくないのを気にしてましてね
   初孫が生まれるというので、それをきっかけに
   なんとかお嫁さんと、仲よくしたいとおっしゃってました。

息子 母が…そがんことば(涙ぐむ)。

男性 夏にでも、お孫さんの顔を見に
   長崎に旅行に来ないかと、誘われていたんです。
   まさかこんなかたちで、ここに来ることになろうとは…。

息子 あのう…今年の夏は初盆で、母の精霊流しばしますけん
   よろしかったら、お盆にまた来ならんですか?

男性 精霊流し…ですか。
   ああ、有名なフォークソングにあるあれですか。いいですね。

息子 ・・・う〜ん。
   本当は、あがんしっとりしたもんじゃなかとですよ。
   いとこにこの精霊流しば毎年、夏一番の楽しみにしよっとのおるとです。
   目つきの変わっとですよ。オソロシか〜

男性 ええっ、そんなものなの?
   あの歌とは違うの?意外だな〜

《訳》
息子 ところで、母とはどんな…

男性 お恥ずかしながら…メル友…だったんです。

息子 ええっ! メル友ですか!?

男性 お互い、いろいろ相談相手になってまして…。
   あの方は、お嫁さんと折り合いがよくないのを気にしてましてね。
   初孫が生まれるというので、それをきっかけに
   なんとかお嫁さんと、仲よくしたいとおっしゃってました。

息子 母が…そんなことを(涙ぐむ)。

男性 夏にでも、お孫さんの顔を見に
   長崎に旅行に来ないかと、誘われていたんです。
   まさかこんなかたちで、ここに来ることになろうとは…。

息子 あのう…今年の夏は初盆で、母の精霊流しをしますから
   よろしかったら、お盆にまたいらっしゃいませんか?

男性 精霊流し…ですか。
   ああ、有名なフォークソングにあるあれですか。いいですね。

息子 ・・・う〜ん。
   本当は、あんなに(歌のように)しっとりしたものではないんですよ。
   いとこにこの精霊流しを毎年、夏一番の楽しみにしているのがいるんです。
   目つきが変わるんですよ。オソロシい〜

男性 ええっ、そんなものなの?
   あの歌とは違うの?意外だな〜


<ワンポイント>
※今回は、長崎のお墓についてのべてみます。

【坂と墓とバカ】
むかしから長崎にたくさんある、といわれる3つの「か」である。
坂とお墓は、見るからに多い。
また、見た目にはごくふつうの人なのに、おまつりとなると
とたんにバカになってしまうのも、よくある光景。

【土神】
もともと唐通事や帰化唐人がお墓に作っていたものが、一般に広まったとか。
ほかにも長崎のお墓は、中国からの影響を大きく受けている。
立てる線香も「竹線香」とよばれる、大きくて独特のかたちのもの。
お土産にするつもりで持っていると「花火」とカン違いされて
空港で止められることも…?

【墓とび】
お墓をしきってある塀の上をとび移る遊びのこと。
(墓石に乗るわけではないので、ご心配なく)
長崎のまちは、墓地と家々が隣接するところも多いのだが
むかしはそういう光景がよく見られた。あまりよい遊びではないとして
大人たちが「墓でケガしたら治らんとばい」と脅しをかけていた。
最近は子供が外で遊ぶすがたさえ、あまり見かけなくなってしまったのだが。

【精霊流し】
初盆を迎える家だけが精霊船を出せる、というしきたりになっていて
上記でのべたように、おまつり好きの人々にとっては
亡くなった人に対する悲しみと、精霊流しに参加できる悦びが
入りまじった、なんともいえない複雑な感情がわいてしまうのが常。
(精霊流しについては、また次回でくわしく)


次回へつづく…

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