海外交流に地形や気候。時代時代に生きた人達。様々なものの影響によって誕生し、受け継がれてきた長崎の伝統は数え上げたらきりがない。食べ物はもちろん、生活必需品や存在自体を意識していなかったあんなものまで。改めて見直すととっても大切なものだ。


ズバリ!今回のテーマは

「伝統を守り続けている老舗店に感謝!」なのだ


国指定重要文化財の眼鏡橋のほか、数々の石橋群が架かる中島川。この川と寺院が建ち並ぶ寺町通りの間にあるのが、長崎一古い商店街、中通り商店街だ。道の両サイドには町屋づくりの古い民家や大正時代の洋館なども見られ、ところどころに老舗の専門店が点在している。この界隈、最近ではおしゃれなカフェや飲食店などが続々とオープンするなど、昔懐かしい風情と新しい風が心地よく調和した楽しめる魅力あるストリートに変貌しつつある。そんな中、今回はこの界隈に残る老舗の中でも江戸時代から続く店に着目! 老舗が守り抜いてきた長崎の伝統に触れてみることにしよう。



長崎の伝統を食文化に見る!

長崎の水と麹屋さん
江戸時代、長崎の飲み水はもちろん井戸水だった。しかし大半は水質が悪く、飲めたものではなかったそうだ。そんな中、良質な水が湧いていたのが、金比羅山麓と西山町、そして麹屋町湧水だったという。そういえば、当時長崎港に入港したロシア船の船員達もこの町に水を汲みにきていたという話もあるし、伊良林の光源寺に伝わる「産女(うぐめ)の幽霊」話にも麹屋町の井戸が出てくる。その良質の水を利用していたのだろう、現在の麹屋町付近には、染め物に関わる職人が多く集まっていたことから新紺屋町(しんこうやまち、またはあたらしこうやまち)と呼ばれていたのだがその後、これも水が重要な役割を果たす味噌や醤油の原料である麹づくりに適した場所として、麹屋が集まってきたことから正保年間(1644〜1647)に麹屋町と改称された

江戸時代の佇まいが伺える壁

末吉麹屋2代目・末吉勝次(しょうじ)さん

「“”という古い字には、“人”という字が多く使われていますよね。それは手間ひまがかかる、人手がかかる仕事だからですよ。」
そう語るのは、今年長崎くんちの踊町で川船を奉納し麹屋町に唯一残る麹屋さんの2代目・末吉勝次(しょうじ)さん。2代目ということからわかるように、厳密にいえば老舗ではないが、麹屋町の名の元に今も麹屋を営む貴重な店舗だ。
外観は立派なビルになっているのだが、
「実は江戸時代の名残があるんですよ」
とご主人が作業場奥に案内してくださった。


まずはその奥行きにビックリ! 一軒向こうは、もう中島川だというからそれはご想像の通りの広さ。さて、その奥にあるのは高さ1m50cm程の石垣だった! この石垣は何かというと、江戸時代の防火壁! かつてはこの辺り周辺にもあったそうだが現在はここだけになったのだそうだ。ご主人が子どもの頃はこの上を走り回って遊んでいたとか。他にも消火活動の際に使われていたと推測される(ハシゴ自体に記述あり)6〜7mはあるハシゴが、なぜだかこの家に残っていたという(今は分断し活用)。おそらくこの敷地の広さから昔から地域の人にも重宝されていた店だったのだろう。


江戸時代の防火壁


江戸時代のハシゴ

生きた食材・麹パワーは今も健在               
さて、20年程前までは数種類の麹や、今は引退されたお父様の名の“勝”をとり「富士勝」というオリジナル醤油も作っていた末吉麹屋。しかし一般家庭から麹のように生きた食材が消え、味噌や漬け物、納豆などを一から手づくりしなくなると、当然需要も減り甘酒麹と味噌麹のみを製造販売することとなった。
長崎で甘酒といえば、諏訪神社の秋の大祭・長崎くんちの料理にはつきものの品。昔は甘酒麹を購入して各家庭で手づくりの甘酒を楽しんでいたという。
「昔は家庭で生きた食材を使って食品ができる“過程”を見ることができたから安心だったんですよ。そして家で作ったものは、家庭菜園でもわかるように不思議と旨いんですよね。市販の味噌などは、結局、腐敗を止めるよう熱処理をしたり殺菌をしたり添加物を加えたりしているから麹菌が死んでいるんです。その点、家で作ると生きたまま口に入れることができるってことです。」
お話を聞いていると、麹はまさに今注目されているロハス生活にうってつけの素材だと実感!
しかし、この麹づくりの行程は熟練された技はもちろんのこと、その日の気温や湿度を加味した上での調整、いわゆる長年の勘を必要とする職人技。仕込みに入ったら作り手の事情よりも麹に合わせることとなる。今年麹屋町は長崎くんちの踊町だったが、毎回のことながらご主人は参加できなかった。
「麹は生き物。絶対人任せにできない、私だけができる仕事ですからね。」
その心意気のおかげで伝統の味が守られ、今でもできたての甘酒を味わえているのだ!



麹室

取材中に年配の御婦人が甘酒を買いに来られた。
「飲まずにおれんとさねー。今日はお土産で買いよると。」
と、1リットル以上ある甘酒を2本マイバッグへ。たとえ重くても美味しい甘酒を食前酒にするために、えっちらおっちら。添加物の入っていない生きた甘酒は健康の源なのだ!





■末吉麹屋
 麹屋町4-16
 095(822)3089
 8:00〜日没
 日曜休(長崎くんちの間は営業)


甘酒
飲み込みが難しくなったご老人の流動食にと10本程購入して冷凍保存しているというお客様もいるとか。


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【長崎の伝統を食文化に見る】
【長崎の伝統を石文化に見る】
【長崎の伝統を菓子文化に見る】
【長崎の伝統を薬文化に見る】


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