2.出雲町遊廓跡〜川原大池


御崎道(みさきみち)は石橋から南山手方面への路地へ入り、突き当たった所から順路を左にとり出雲町へと進む。では、これからは車で移動といこう。


越中先生
「この界隈は出雲町(いずもまち)。昔の遊里です。ここは明治25年(1892)に浪ノ平地区から移転してきたもので、商人や外国人客で賑わった丸山などとは違って船の関係者が多かったそうです。最盛期には多くの遊廓が立ち並び、350人もの人達がいたと言われています。今は全く跡形も残っていませんね。」

この道を上ると、田上と戸町方面とを結ぶ田上小ヶ倉線へと出る。実際の御崎道(みさきみち)は、出雲町から山の谷間を通り二本松神社へと進む。

越中先生
「二本松からしばらく進んだ場所に十人町と同様の“みさきみち”の道標がひっそりと立っています。また、この道を下った場所には長崎甚左衛門の一族である長崎氏(うじ)の墓地があったんですが、今はどうなっているんですかね。上戸町にはこの長崎氏の子孫、城野氏を訪ねたことがありますが、一帯を治めていた一族の家が戸町の海岸を上ってきた切り通し辺りにあったと考えられます。今は竹林になっていますね。戸町小学校から新小ヶ倉1丁目にさしかかると、『従是南佐嘉領』の碑がありますが、これはかつてここから南は、佐賀領だったことを示しているんですよ。」


<城野氏の墓碑>


<城野城址跡>

新興住宅地であるダイヤランド入口手前に“力士墓”の碑があり、この碑の前の植木屋の庭の中に小さく破損した“みさきみち”の道標が立っている。ダイヤランド造成で古道に行く道がなくなり、御崎道(みさきみち)はここで途切れてしまっているそうだ。しかし、この地区には“殿様道”がある。ダイヤランド入口から山越えして三和町の大山祇神社へ行く道があり、ダイヤランドの中腹に殿様が休憩した“籠立て場”があったと言われているのだ。入口、出口、中程の三ケ所にお地蔵様が祀ってあり、古地図道と合致するため、このお地蔵様があるルートが“殿様道”の山越えルートと推定されるのだそうだ。

さて、ここからは野母崎へとひたすら車を走らせる。三和町の三叉路では左に順路をとりしばらく進むと、昔、漁港として栄えた為石の港に出る。そして、さらに進んで行くと川原だ。


越中先生
「川原大池には次のような伝説が残されているんですよ。平安時代中期、一条天皇(在位986〜1011)の頃、肥前の国高来郡川原村(現在の川原)の領主、大蔵太夫高満におち姫と呼ばれる容姿端麗な娘がいたんです。そのおち姫が、領内の大山にあった楠の大樹に恋をしたんですよ。それから数年後、高満はその大樹で船を造ったんです。しかし、船が完成して海岸まで引出そうとすると、船が全く動かなくなってしまったんですね。そこで高満は占ってもらうと、“おち姫という娘を船に乗せると人力なしで船おのずから海に浮くべし”と言われたんですよ。そこで高満がおち姫を美しく飾って船に乗せると、不思議なことに一人でに船は動きだしたんですが、大池の所にさしかかると空は一変、大暴風が起こり、雷はとどろき、地は裂けて一里四方の地面が沈んでたちどころに池となったというんですよ。そしておち姫は、船もろとも跡形もなく消えてしまいました。しかし、この話には続きがあるんです。この事件後も大池の周囲では妖気が漂って人が寄り付かないので、高満は熊野から修験者・知行を招いて妖気退散の祈祷を行なったんです。すると、満願の夜、大蛇が現れ、ひとたび池に潜り再び現れると美しい女になり“私は文珠菩薩です、この後私を川原権現として崇めればこの地の守護神となりますよ”と言ったんですね。そのため修験者・知行は、池の西に権現堂を建て、自ら文珠菩薩像を刻んで安置したのだといいます。その際に建てられたのが、池の御前神社ですね。」

川原の大池公園内にある池の御前神社内には、元禄5年(1692)、天保8年(1837)、明治41年(1908)再建の三基の祠があるが、この神社の起源は、大蔵太夫高満が正暦5年(994)11月に愛娘・おち姫の冥福を祈念するために建立されたことがはじまりだという。また、現在は廃寺となっているが、川原の城山には、大聖寺(だいしょうじ)という寺があり、川原の領主・大蔵太夫高満の菩提寺といわれ、この付近一帯は高満公の古城址と伝えられている。平安時代以降のものと思われる五輪塔や宝篋印塔(ほうきょういんとう)など、多くの墓碑群があり、市の文化財に指定されている。これは一説には高満公の墓とも言われている。

また、大池公園一帯は野母崎半島県立公園の中心地にあたり、社叢(しゃそう)一帯は県指定天然記念物の樹林地帯だ。大池を左目に車を走らせると急カーブの連続。かなりの山道となっている。


越中先生
「実際の御崎道(みさきみち)は、この山々の中を通っていたんですよ。」

背丈の高い草むらに覆われた急なカーブを曲がる度に、別角度の美しい海の青が目に飛び込んでくる。取材の日は晴天で雲仙普賢岳や天草をくっきりと望むことができた。


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【御崎道ってどんな道?/1.御崎道(みさきみち)石碑〜石橋】
【2.出雲町遊廓跡〜川原大池】
【3.観音寺〜御崎の灯台跡】
【★足を伸ばして 権現山展望台(野母)〜正瑞寺(しょうずいじ)(高浜)】